月華流舞・白鶴の一閃
ルデリア村。
闇に染まった大地を、影狼が踏み荒らしていた。馬車ほどもある巨体は影晶を纏い、赤黒い眼が血のように輝く。咆哮とともに瘴気が溢れ、家々が軋み、地が腐っていく。
「くっ……囲め! 槍を突き出せ!」
村を守る兵士たちは盾を並べ、必死に構えた。だが、影狼の巨腕が一振りされただけで十人近くが宙を舞い、盾は紙切れのように粉砕された。
「ぎゃああっ!」
「こいつは……化け物だ!」
火矢が放たれるも、瘴気に呑まれて掻き消える。魔法の矢すら結晶に弾かれ、兵の叫びと血飛沫だけが夜に響いた。
「下がれ! もう持たん――!」
必死の抵抗は、ただ影狼の猛威を際立たせるだけだった。
その時――。
「退け!」
澄んだ声が混乱を断ち切った。
レオンとクラリスが村へ駆け込む。
影狼の赤黒い瞳が二人を捉え、咆哮が夜空を震わせた。瘴気の波が押し寄せる。だがレオンは一歩も退かず、静かに掲げた手で流れを逸らす。
「……力を誇示するばかりか。下らぬ。」
クラリスが一歩前に出て、細剣を抜いた。
「旦那様。――ここは私に。」
舞台に立つ舞姫のように身を翻すと、彼女は凛とした声で叫んだ。
「――《月華流舞・白鶴の一閃》!」
流麗な足取りが瘴気を裂き、刃が月光を宿す。宙を舞うように回転しながら、振り下ろされた影狼の爪をいなし、返す一閃で結晶を粉砕した。
「なっ……!」
血に染まった兵士たちが息を呑む。
クラリスの剣は舞い続けた。突き、払い、翻り、斬る。
それは戦いではなく、光そのものの舞踏。
影狼の咆哮が苦鳴に変わり、巨体がよろめく。
「舞は美しく、そして鋭い。」
背後で見守るレオンが、低く呟いた。
クラリスは最後に月光を纏った一閃を放ち――。
「――《月華流舞・断影の舞》!」
白銀の光が闇を裂き、影狼の首を斬り裂いた。
巨体は轟音とともに崩れ落ち、瘴気は霧散していく。
静まり返る村。兵士たちは呆然と立ち尽くし、やがて歓声が爆発した。
クラリスは荒い息を整えながら剣を収め、一礼する。
「旦那様。……お役目、果たしました。」
レオンは微笑みを浮かべ、静かに頷いた。
「よくやった、クラリス。だが――影はまだ潜んでいる。これからが本番だ。」
歓声が夜空に響く中、レオンの瞳はただ一人、闇の奥に潜む真の敵を見据えていた。
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