戦線の影 ― 予兆と軽侮と燃え上がる前夜
〈帝国南領・赤土前線地帯〉
大地が火を孕むように熱を帯び、空には黒い灰が漂っていた。
兵の足跡も、戦車の車輪の跡も、焦げた地面に深く刻まれている。
遠方に、巨大な軍旗。
帝国第七近衛騎士団――“紅炎防衛線”だ。
セリオは歩きながら、胸元を押さえていた。
「……なんか……鼓動が、変です……
誰かの悲鳴が、喉の奥に引っ掛かって……
呼びかけて、きて……」
アリアが素早く彼の肩に手を置く。
「セリオ、落ち着いて。
“水の精霊呼応”が強まってる。
あなたの感覚は“影の位置情報”に近い。」
セリオの瞳が、水の揺らぎのように淡青く輝く。
「……すぐそこ……来ます……
“いっぱい”……
泣きながら……“燃えてる”……」
クラリスは剣の柄へ自然と手を添えた。
「旦那様。セリオさんの予兆は間違いありません。」
レオンは静かに頷く。 「前線は――もう戦場になっている。」
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背の高い防壁。
蒸気を噴き上げる巨大な魔導甲冑。
移動砲台型魔導兵器が列を成す。
帝国近衛騎士たちの視線がレオンたちに向けられた瞬間――
空気に軽い嘲りがまざった。
騎士(小声) 「本当に来たのか……王国の“古式剣士”一行が。」
別の騎士 「剣?槍? そんな前時代的な装備で何をするつもりだ?」
兵士 「炎の獣を相手にするのは――兵器の仕事だ。
素人は後ろで見てろってことだ。」
イリナ
「はああ~~??」
クラリス(にこり) 「イリナさん、落ち着いて下さいまし?」
イリナ
「ワ・タ・シは落ち着いてるヨ?
ただ『頭が悪いのかな?』って思っただけ~?」
(※火花、散る)
アリア(大きくため息) 「これだから帝国の“技術至上主義”はめんどくさいのよね……」
そこへ、紅い軍装を纏った指揮官が姿を見せた。
第七近衛騎士団長
カーレス・ドランヴァル少将
カーレス
「王国の客人よ。
お前たちの勇気は認める。だが――
この戦場では“剣”ではなく“魔導戦力”が主役だ。」
レオン
「……というと?」
カーレス
「我らが誇る《灼炎魔導砲台群》で影獣を焼き尽くす。
お前たちは後方で状況を“視察”していればいい。」
クラリス、すぐ反論しようとする――
が、レオンが軽く手で制す。
レオン(穏やかな笑み)
「――了承した。」
イリナ
「レオン様!?
絶対“納得してない”顔してるじゃん!!!」
レオン
「見るべきものがある。
それが済めば、どうするべきか分かる。」
アリア(理解)
「……“影の根”の形を読むつもりね。」
セリオ(小声)
「こ、この流れ……絶対後で大変なことになりますよぉ……!」
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夕刻。
赤い地平線がじりじりと燃える。
兵器は唸りをあげ、帝国軍は前線準備につく。
だが、レオンだけは――
沈む太陽の向こうを見ていた。
「……来る。」
セリオが再び胸を押さえる。
「……燃えてる声……泣いてる声……
“影”が……
“怒ってる”……」
アリア(低く)
「この気配……魔導将級。
氷で出会ったイスカリオスと同等。
――いいえ、もっと荒々しい。」
クラリス
「旦那様。指揮官に伝えましょうか。」
レオン、ゆっくりと首を振る。
「言っても準備は変わらない。
――帝国は、まず兵器で挑むだろう。」
イリナは槍を軽く回し、笑う。
「んじゃ、兵器が足りなくなったら――
ウチらの番だね?」
クラリス、すれ違いざまに微笑む。
「いいえ。
旦那様を守るのは私ですわ。」
イリナ
「言ったなぁ~?
やろーじゃん、勝負!」
セリオ
「なんで戦場前にヒロイン戦なんですかぁぁぁ!!」
アリア(頭を押さえながら) 「……まあ、どっちも本気なのは伝わるけど。」
いつもありがとうございます。また明日更新します。次回、影は炎を喰う ― 予兆は、いつも正しい




