ルデリア村の異変
王城の布令により、王都の警備は強化され、街路の要所には兵が立ち並んだ。 市場は半ば閉ざされ、人々は不安げに家に籠もる。 「英雄の血が奪われた」という噂は瞬く間に広がり、王都の光り輝く繁栄はわずか数日のうちに影を帯び始めていた。
その矢先――。
「急報! 王都南方、ルデリア村にて強大な魔物が一体出現!」 城門を駆け抜けた伝令の声は、兵士たちの胸を凍らせた。
それはただの魔物ではなかった。 夜の闇に溶け込む巨大な狼――全身に影晶の結晶を纏い、目は赤黒く光る。 一撃で兵士の盾を粉砕し、家屋を踏み潰し、瘴気の咆哮で村全体を覆い尽くす。
「っ……退け! あれは……普通の魔獣じゃない!」 村を守る兵は必死に応戦するも、次々と倒れていく。 そのたびに影狼の身体は黒く脈動し、さらに強大な瘴気を放った。
王都からは援軍が急派されたが、同時にイリスの行方を追う捜索も続けられており、兵力は分散。 「防衛と捜索の両立は無理だ……!」 「教団はわざと魔物をけしかけているに違いない!」 混乱の声が飛び交い、王都の秩序は急速に揺らいでいった。
王都の大通り。
影狼出現の報せが広まり、人々の不安げな声が飛び交っていた。
レオンとクラリスは、雑踏の中で立ち止まり、伝令が叫んでいた「ルデリア村」の名を耳にした。
「旦那様……ルデリア村とは、どれほどの距離にございますか?」
クラリスが低声で問いかける。
近くにいた行商人が振り返り、緊張した面持ちで答える。
「南方の街道沿いにございます。王都から馬で半日ほど。交易の中継地でして……私も何度も立ち寄ったことがありますが……まさか、あんな魔物が……」
彼の声は震え、手に持つ地図がかすかに揺れていた。
レオンは顎に指を添え、わずかに思案する。
「半日……近いな。王都にまで及ぶ前に、止めねばならない。」
クラリスは真剣な眼差しで頷く。
「はい。もし王都に迫れば……混乱は計り知れません。」
レオンは静かに決意を固めるように呟いた。
「光に生きる都を、影に奪わせるわけにはいかない。――行こう、クラリス。」
こうして二人は、未だ見ぬ「運命の出会い」となる村――ルデリアへと歩を進めていった。




