陽動──ルデリアの咆哮
王城から布告が発せられるや、王都は慌ただしく動き出した。 広場や大通りには兵が立ち並び、商人たちは不安げに市場を閉ざし始める。 魔導師団は影晶の解析に取り掛かり、辺境からは増援の騎士団が到着しつつあった。
だが――。
「報告! 王都南方の村ルデリアに、強力な魔物が出現!」 血相を変えた伝令が評議会に駆け込む。
「魔物だと……?」ガルド老将が立ち上がる。 「数は?」
「一体……ですが……」 伝令の声が震える。 「村を囲む柵を踏み潰し、兵十名を一撃で屠りました! 影晶の瘴気を纏った……巨大な“影狼”と!」
大広間にどよめきが走る。 ローズマイン家のリカルドが顔を蒼ざめさせる。 「交易路のすぐそばではないか! あの道が塞がれれば……」
フェルディナンド学匠卿は低く呟いた。 「影晶と繋がる魔獣……これは自然の魔物ではない。 教団の仕業に違いない。」
辺境伯ダリオスが椅子から身を乗り出す。 「ほら見ろ! 奴らは王都そのものを狙っている! 今すぐ辺境軍を倍増させ、主導権を渡せ!」
またしても派閥の言い争いが始まろうとしたその時、 宰相オルヴィンの杖が再び大理石を叩いた。
「静まれ!」
響き渡る声に場が鎮まる。 「――魔物はただの脅威ではない。 誘拐と同時に出現した以上、これは“陽動”だ。 奴らは王都を混乱に陥れ、我らを分断しようとしている。」
セオドリック・アークライトが低く言う。 「……娘を奪い、象徴を晒し、国を乱す。 敵は思っている以上に狡猾だな。」
オルヴィンは頷いた。 「だが、この局面で一致せねば滅びる。 ――諸卿、影に抗う覚悟を示せ。」
その言葉に、誰もが渋面を浮かべながらも従わざるを得なかった。




