プロローグ
はじめまして。
初投稿となります。読んでくださった方に少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
本作は「望まぬ不死を背負った王」が、かつての悪魔王の残滓と再び向き合うファンタジーです。
王道の冒険・戦いを楽しんでいただけるよう執筆しました。
どうぞお付き合いください。
数百年前――
「あの夜を、私は今も忘れられない。
焦げた石の匂い、血の鉄臭さ、仲間たちの荒い息……。
我らは、悪魔王の玉座へと踏み込んだ。」
仲間たちは瀕死だった。
モルガーナは血に濡れた手で結界を支え、セリアは折れかけた剣を震える腕で構え、リュミエールは光の矢を放ちながらも崩れ落ちそうになっていた。
私は渾身の力を振り絞り、剣を振り下ろす。
刃が悪魔王を両断し、闇の肉体は爆ぜるように砕け散った。
「やった……!」
その声が響いた瞬間――。
砕け散った肉片から、黒い光が無数の鎖となって空間を走り出す。
鎖は生き物のようにうねり、仲間を避けるかのように一直線に私へと伸びた。
「なっ……!」
逃れる間もなく、冷たく重い鎖が私の胸と四肢に絡みつく。
皮膚を貫き、骨を締め上げ、心臓へと突き刺さる。
次の瞬間、漆黒の奔流が体内に雪崩れ込んだ。
魂そのものを掴まれ、無理やり呑み込まれるような感覚――
胸の奥で何かが崩れ、同時に「死」という扉が閉ざされる音を聞いた気がした。
「……死ねない……? いや、死ぬことすら許されぬのか。」
仲間たちは勝利に歓喜しながらも、私に絡みつく黒い鎖を見て恐怖に凍りついていた。
その眼差しに映っていたのは、英雄ではなく、悪魔王の残滓を宿した異形の存在。
私はただ、血に濡れた剣を握り直す。
「ならば、この不死を背負おう。すべては……国のために。」
数百年の時が流れ、アルヴィス王国は大陸随一の繁栄を誇った。
王都アルシオンは白亜の城と黄金の尖塔を戴き、芸術は花開き、市場には宝が溢れ、民は豊かに暮らす。
歴史書は記す。
「不死王レオンの治世において、アルヴィス王国は光を戴く楽園となり、大陸の中心に座した」と。
だが、繁栄の影に揺らめくものがあった。
かつて悪魔王の残滓から生まれた「影晶」。
その不穏な輝きが、再び人々の暮らしに忍び寄りつつあった。
王城の奥で、若き姿のままの王レオンが旅支度を整える。
傍らには忠実な従者クラリスが控えていた。
「光り輝く王国を見守るために――私は再び旅に出る。」
こうして物語は始まる。