重量加重型
「姉上! こっちは終わりました」
からくり箱型通信器から聞こえてきたスピンズ王子の声は擦れていた。叫びすぎで喉が枯れてしまったのかと思ったが、魔素の影響で魔術具がおかしくなっていることに、途中で気がついた。
「スピンズ、こっちも終わったわ。これから、ジュールの所へ向かおうと思うんだけど……」
「そしたら、術式を送りますのでジーク様へ見せてください。たぶん、すぐに分かると思います」
私は近くにあった転移魔術陣から送られてきた皮用紙をジークへ手渡すと、森全体を見渡せる丘の上に立っていた。
魔素が減って、森はいつもと変わらないように見えていた。けれど、木や草が育ちすぎて、ところどころで木に木が絡まったり、蔦が草木に巻きつきすぎて道が通れなくなったりしていた。
「陛下、準備が整いました」
「今、行くわ」
ジークの言葉に振り返った私は、丘から下りると、転移魔術陣に乗ってジークと共に5つ目の鍾乳魔石へ向かったのだった。
*****
5つ目の鍾乳魔石は、前回来た時に解呪しそこねた幻影魔術の裏にあった。ジュールが、こちらを見て手を振っていたので、私達はジュールのいる方へ駆けていった。すると、どういうわけか身体が急に重くなり、地面に這いつくばることしか出来なくなってしまった。
気がつけば、地面には巨大な魔術陣が描かれ、赤い光を放っていた。
「しまった。重力変化型の魔術陣か?」
私とジークは地面に這いつくばるように身を屈めて、少しずつしか前へ進むことが出来なかった。洞窟の入り口の前には、エドガーが私達へ向けて手を翳している。私の目の前でエドガーはジュールの肩に手を置いていた。
「ジュール、なんで……」
私にはジュールの身体から緑の光が放出され、エドガーに吸いとられるように失われていくのが見えていた。
「陛下、申し訳ありません。身体が言うことを聞かないのです」
そう言ったジュールは、力尽きるようにその場に倒れてしまった。
「ずっと、魔女の傀儡だったのだ。私の暗示に、すぐかかったぞ。だが、心までは囚われなかったんだな。珍しいこともあるもんだ」
「なんてことを……」
「この世界は、もう限界だ。一度滅びた方がいい。森や精霊達が泣いている。世界の創造をやり直してこそ、私達魔族が生きていける、新しい道が出来ると、私は信じている」
そう言ったエドガーは、私へ手のひらを向けて魔術を放っていた。
「うっ……」
「陛下──大丈夫ですか?」
「だいじょぶっ、じゃない……。ジュールから力を奪ったみたいなの」
「魔族にも、識る力を使える者がいるのですね……」
身体に更に負荷がかかっていた。地面に身体が食い込みそうなほど、身体に圧力がかかっていく。もう駄目かもしれない。そう思った瞬間、空から急にユリウスが現れた──ように見えた。魔術増強装置を斜め掛けに肩へ掛けたユリウスは、地上へ降り立ちながら言った。
「ランブレ、アクアフルーレント!」
光魔術をエドガーに放ったユリウスは、空中でふらついていたが、スピンズ王子の風魔術によって、なんとか地面へ着地していた。




