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すれ違う婚約者たち

 城へ戻り、雨に濡れてしまった私達は湯浴みを済ませて、各々の時間を過ごしていたが、雷の音が凄くて、城の中は落ち着かなかったので、集合場所である広間へ行くと、ジークがお茶の準備をしていた。


「……あれ、スピンズは?」


「コリアリティを使った魔術薬を作るのに、実験室で奮闘しているようです」


 先に集まっていたユリウス達は、広間の中央にポットを置いてお茶の準備をしていた。


「ジーク、婚約の話だが……」


「陛下は、お気になさらずに!!」


「まだ、何も言ってないけど?」


 ユリウスがテーブルにお茶と食器を並べ終わる頃、広間にネモフィラ嬢がクッキーを持って挨拶に来ていた。


「ごきげんよう」


「モネ、久しぶりだね。もしかして差し入れかい? ありがとう」


「キース様に食べていただきたかったのです」


「そう? ありがとう、いただくよ」


 ジークとネモフィラ嬢の微妙な距離感を感じながらも、近くにいた侍従によって、お皿に並べられたクッキーを一つ摘まむと、ネモフィラ嬢は嬉しそうに微笑んでいた。


「美味しいよ。懐かしいね、さくらんぼの味がする」


「カルム国より、ずっと南にある国で採れた物で、トルーカと言う果物らしいです。似ている味だったので、もしかして何か作れるんじゃないかと思って作ってみました」


「すごい。作ろうと思ったら、作れちゃうんだ? もうプロの料理人と変わらないじゃないか」


「プロの料理人になれたら良かったですね。伯爵令嬢は料理人には、なれませんから……」


「ネモフィラ嬢、だからそれは仕方が無い話だと言ったろう? それとも君は、料理人の仕事を奪うつもりか?」


「ジーク、何もそんな言い方しなくても……」


「私は、作れるものを作った時に、美味しいって言って食べてくれるだけで良いんです。料理人の仕事を奪おうだなんて思っていません。失礼します!!」


(え? なに? 何で痴話げんかしてるのよ)


「姉上、コリアリティの魔術薬が完成しました!!」


 タイミングよくドアを開けて入ってきたスピンズ王子は、場の凍りそうな空気に驚いて固まっていた。


「え?」


「……」


「……」


「結局、私は何者にもなれないのですね」


「モネ?!」


 ネモフィラ嬢は吐き捨てるように呟くと、部屋を出ていった。


「ジーク、追いかけないの?」


「好きでもないのに、追いかけるのですか? 余計な気を持たせるわけには……」


「何言ってるの? 婚約者でしょう?」


「……」


「私には、好きな人がいます。前から気になっていたのですが、以前の記憶を取り戻してからは、余計に気になっていました」


(ちょっと待って。このタイミングで何か言うつもり?)


「もしかして、私のこと? 私には生憎、ユリウスという、前世からの素敵な伴侶が……」


「好きです、スピンズ王子。以前からお慕いしておりました」


「えっ、ぼく?」


「何で、いま言うのよ……」


 ジークの言葉に、私はため息を吐かざるを得ないのだった。




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