祈り
「あのクラッシャー? 扱いには注意しないと……」
「コリアリティを煮込んで、凝縮した液体を魔石にハケで塗り続ければ、外殻みたいなものが薄くなり、姉上の魔術を使うことが可能になるでしょう。仮定での話になりますが、たぶん大丈夫だと思います」
「そうか、クラッシャーか。思いつかなかった。未知の物質だから、どうにもならないと思っていた──思い込みは、危険だな」
ジークの言葉に、スピンズ王子は笑っていた。
「ジーク様のお役に立てたみたいで、良かったです」
(なんだか、二人の雰囲気がいいような気がする──気のせいかしら?)
「陛下、どうなさいましたか?」
「何でもないわ、ユリウス」
「陛下、また何か隠してますね?」
「友の幸せを祈っているだけよ」
「友の幸せ?」
ユリウスは私の言葉を聞いて、半眼になりながら、ジークを見て──その後、スピンズ王子を見ていた。
「なるほど。そういう事ですか」
「いや、分からないけどね」
「陛下、安心してください。ネモフィラ嬢とジークの婚約が先日決まりました。ネモフィラ嬢は白い結婚だと言い張ってましたが、私は良かったと思っています」
「ええっ? 良かったねって言いたいけど、どうなってるの? 全然、納得出来ないんだけど……」
「ネモフィラ嬢は、自分が私と婚約したことにより、陛下が城を飛び出したと聞いて、自分から婚約破棄を申し出たんです。深窓の令嬢にあるまじき行為です。ですが、私とお父上に土下座して……。例え幸せになれなくても、ジーク様と婚約させて欲しいと仰ってました」
「……なぜ?」
「陛下のためですよ。私と婚約したら、一生後悔すると言っていました。陛下大好きですからね、あの人は」
「果報者ね、私は。モネにはモネの幸せを掴んで欲しいのに……」
「まあ。なるようにしか、ならないでしょう。見守りましょう、陛下。あの人の選択を──」
「そうね。他人の恋愛に口を出すべきじゃないわ。結局は、幸せを祈ることしか出来ないのよ」
「ええ、本当に」
調査が終わったのか、ジークがこちらへ戻ってきながら、くしゃみをしていた。
「陛下、調査は終わりました。鍾乳魔石にコリアリティが効くかどうかは分かりませんが、この件は、いったん城へ持ち帰りましょう」
「分かったわ」
私達は帰る支度をして、それぞれの馬へ乗った──城へ戻る途中、森へ雷が落ちていた。森に異変が起きていることを感じながらも、私は近衛兵に囲まれながら、急いで城へ戻ったのだった。




