鍾乳魔石の規定値
「そう言えば──以前、この場所へ来た時は、私の魔術を吸い取ったのよね、この石」
「陛下、今なんと仰って……」
「この鍾乳魔石、私の識る力みたいに、魔力を吸いとったのよ」
「分かりました。何故、この石が爆発するのか。それから、どのようにしてこの世界を救うのかを」
「ええーっ?!」
「ジーク、それは本当か?!」
「もともと、この巨大な石のような鍾乳魔石は魔力を吸収する魔石だったんです。それが、この世界の滅ぶ所以でしょう」
「魔石? 魔石がどうして世界を滅ぼすの?」
「陛下。魔石には素材によって込められる魔力量が決まっています。質のいい魔石は、陛下の放った魔力を充分に収めることが出来るでしょう。しかしながら、魔石にも限界があります。森に自然発生した魔石に、長い年月をかけて、たくさんの魔素が蓄積されたら、どうなると思います?」
「容量オーバー?」
「はい。容量オーバーした魔石は、そう遠くない未来に大爆発するでしょう。それが1箇所ではなく、森の至る所で同じ現象が起きる可能性があるとしたら……」
「ジーク、この魔石が魔素を吸いとるのを止めることは出来ないの?」
「難しいでしょう。止めるにも、この鍾乳魔石の近くに、魔素を取り除く魔術陣を描いても遅すぎます。私見ですが、この石は爆発を防ぐ前に止める事の出来る規定値を、既に超えているものと思われます」
「そんな──何とかならないの?」
「どうにも……。状況を例えて言うならば、沸騰して今にも吹きこぼれそうな鍋に、蓋をしている状態だと言えるでしょう──難しい状況です」
「……」
「気休めにしかならないと思いますが、近くに魔素を吸いとる魔術陣を描いておきます。これで少しは時間を稼げるでしょう」
「ジーク、爆発するまでどれぐらいの時間が掛かるんだ?」
「自然現象なので分かりませんが、私の見立てでは、1年以内に爆発する可能性が高いと思っています」
ユリウスの疑問に、ジークは何とも言えないという表情で答えていた。
「そうか……」
「しかも、鍾乳魔石はここにあるだけとは限りません。魔の森には、複数の洞窟が存在しております。後で、騎士団を派遣して調査するつもりですが、この幻影の魔術が張り巡らされた森で調査を行うのは、かなり時間が掛かるでしょう」
「私も手伝うわ」
「陛下……」
「そう言うと、思ってました」
二人は顔を見合わせると、何故か苦笑していた。




