認知的不協和
それから何度もエドガーと話し合い、ひとまず魔族には、客人として王宮に滞在して貰うことになった。
とりあえず客人として来て貰ったのには、理由があった。人族の生活に馴染めるかどうかも問題だったが、魔族の常識があまりにも人族とかけ離れていても大変なので、関わり合う中で、お互いの接点や違いなどを見つけ出せればと思ったのだ。
新しくできた城の東塔1階が、まだ空いていたので、そこを魔族の生活スペースにして、少しずつ話を聞いていくつもりだった。
ただ彼等は、私が話を聞く前に、自分達の意志で城を出ていってしまった。
「ユリウス、東塔で何かあったのか?」
私がユリウスにそう聞くと、ユリウスはただ首を横に振っていた。
「何もありません。ただ、メイドや侍従は恐れをなして、魔族の方々に近づこうともしませんでした。影でコソコソ噂話をしていたみたいです。呪われた一族だという言い伝えがあるみたいで……」
「弱ったな──何かあるとは思っていたが、こんなに早く出ていかれてしまうのは、想定外だった」
「キース殿」
「エドガー殿」
一週間ぶりに見るエドガーは、少しやつれていた。私の前まで辿り着くと、彼はいきなり頭を下げた。
「申し訳なかった。せっかく、便宜を図ってくれたのに、こんなことになっちまって……」
「いえ、私にも想定外のことでしたので──城の者が恐れて、口さがの無い噂話をした者もいたようです。こちらこそ、申し訳ありません」
私が頭を下げると、エドガーは驚いた顔をしていた。
「私は、城を出た同胞を探し出して説得してみようと思います。城には娘を残していきます。娘を、お願い出来ますでしょうか?」
「父様、私も一緒に行くわ」
「サミュー──お前」
いつの間に来ていたのか、エドガーの後ろには、少女が隠れるように立っていた。
「楽な道のりじゃないんだ」
「いいの、分かってるわ」
「……」
「キース殿、すまない。せっかく用意してくれた客室も無駄にしてしまった。魔族と人族が共存出来るように、便宜を図ってくれたというのに……」
「構わない。もう行くのか?」
「ああ、世話になった」
「また、いつでも来てくれ」
「恩に着る」
エドガーは、いつの間に用意したのか、魔術陣の上に乗っていた。娘であるサミューを抱きかかえると、次の瞬間には、目の前からいなくなっていたのだった。




