国の存続と恋愛
アーリヤ国へ3日間ほど滞在して、どうするべきか話し合った後に、スピンズ王子の転移魔術でエドガーと一緒に、カルム国の城へ戻った。
「陛下!!」
ずっと待ち続けていたのか、転移の間にいたいたユリウスは駆け寄って来た。目の下に隈が出来ているユリウスは、憔悴しきった様子で私に抱きついてきた。
「陛下。よくぞ、ご無事で」
「ユリウス、話があるんだ」
「ネモフィラ嬢とは婚約を解消しました。陛下は、その、まだ私のことを……」
「いや、その話は後だ。彼は、ミランヌ村の村長で、名をエドガーという。魔族だが、今回の魔女の件には関与していない。空間魔術の件で、スピンズ王子に会いに行ったんだが──」
「えー、ちょっと、ちょっと待ってください陛下。最初から、もう一度詳しくお聞かせくださいませんか?」
ユリウスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後、目を白黒させていた。流石に空間魔術の話は突然すぎたかもしれない。
「空間魔術というのは──」
「陛下、はじめからです。はじめから説明をお願いします」
どうやら、違ったらしい。私はミランヌ村に辿り着いたところから、スピンズ王子に会って話をするまで、簡潔に話して聞かせた。
「今の説明で分かったか?」
「ええ、だいたいは。陛下、あの時なぜ私から逃げるようにいなくなったのです?」
「あの時?」
「ネモフィラ嬢と婚約すると言った時です」
「あ、あれは──」
恥ずかしかった。今ここで、ユリウスへの思いを打ち明けるのは、正直言って恥ずかしい。
「あれは?」
「何でもない」
「『エリオット様、何でもないは無いのではありませんか? はっきり仰ってくださいませ』この言葉を覚えていますか? 陛下」
「うっ……」
私は前世で口走った、自分自身の言葉を思い出して恥ずかしくなり、固まってしまっていた。
「私に、あの時の陛下と同じ思いをさせるおつもりですか?」
「いや、えーと──そうではないんだ」
「兄上、イチャイチャするのは後にしてください。国の存亡と自分の恋愛、どっちが大切なんですか?」
「えっ……」
私はスピンズ王子の言葉に、再び固まってしまったのだった。




