空間魔術と物理条件
私達二人は温室の椅子に座ると、スピンズ王子へ今までの事の経緯を説明した。空間魔術の話を始めるとスピンズ王子は興味津々といった様子で話を聞き、話が終わる頃には自分が空間魔術を行いたいと言いだした。
「だって姉上、古の禁忌魔術ですよ? 試しにやってみたくないという方が可笑しいと思います」
「……そう」
試しにやってみたく無いと思った私は、可笑しいのだろうかと思いつつも、スピンズ王子が魔術オタクだった事を思い出す。
私はからエドガーから預かっていた箱を開けると、エドガーに言われたとおりに、中にあるネックレスへ魔力を流した。すると、しばらくして近くに転移陣が現れ、その上にエドガーが突如として現れた──どうやら、ネックレスには探知機能がついていたようだ。
「お邪魔してもよろしいか? キース殿」
「ああ。エドガー殿、こちらが私の弟、スピンズだ。スピンズ、さっき話していたミランヌ村の村長、エドガーだ」
「アーリヤ国、第3王子のスピンズです」
二人が挨拶し終わったところで、さっそく本題へ入った。
「エドガー殿。例の件は、スピンズが協力してくれる事になった」
「スピンズ様。ありがとうございます」
「エドガー殿──空間魔術について、少し詳しく話を聞かせてくれないか?」
「承知した」
エドガーが椅子に腰掛けると、体格のいいエドガーと目の高さが同じになった。スピンズ王子は耳の形に驚いて、目を丸くしている。
「本当だ。本当に、まだ魔族がいたんですね」
「スピンズ王子!!」
「すみません。話には聞いていたのですが、珍しい人や物を見ると、どうしても好奇心を抑えきれなくなってしまって」
「構わない。好奇の目は馴れている」
「ありがとうございます。そう、言っていただけると助かります。早速ですが、空間魔術についてです。魔術陣はどのようなものを使用していますか?」
「私達魔族は、基礎の魔術陣しか使わない。そこに改良を加えていって、独自の魔術陣を作り出すのが魔族の常識だ」
「作り出す?」
「そうだ。大事なのは、基礎部分だけであるし、そこから応用して色んな魔術陣が作成できるんだ。人の魔術陣を真似てばかりの奴もいるが、そういう奴は、たいてい村では爪弾きにされてるな」
「なぜ、真似てはいけないのですか? 創作芸術などは、好きな作品を真似てこそ上達すると、よく耳にしますが……」
「それとこれとは話が違う。魔族は、自分が理想とする魔術陣を一人で描けて、初めて一人前だと認められるんだ。まあ、確かに始めたばかりの頃は、親の魔術陣を真似る奴はよくいたがな」
「すみません、話が脱線してしまいましたね。空間魔術について、一度消滅させた後、再び作り出す過程において、何か気をつけた方がいいことや、気になる点はありますか?」
「特にないんだが──敢えて言うなら、あの辺りの魔素が濃いことかな?」
「魔素が濃い?」
「エドガー殿、魔素が濃いと何か問題があるのか?」
私がエドガーに聞くと、彼は腕を組みながら答えていた。
「ない。無いとは思うが──先日、インフェルノが亜空間の近くを通った時に、違和感を感じたんだ」
「違和感?」




