ネモフィラ嬢の婚約者
「それで、一時的にでもいいから、私が婚約者になるように。と言われました」
「ユリウスが?」
「何でも、娘を泣かすような奴の所に嫁に行かせることは出来ないと──怒りを静めるのだけで精一杯でした。謀反でも起こしかけない雰囲気だったので、ひとまず私が婚約者になる事に……」
私は半眼でジークのことを見つめていた。ゲームのことは、すっかり忘れていたが、無意識のうちに何かのフラグを立ててしまったのだろうか。
(ジークが示談だなんて、訳が分からないことを言うからよ)
「ユリウスは、それで良かったの?」
「いいか悪いかと言うより、仕方が無いという感じですね。どうやら、カルム伯爵はジークのことを、あまり良く思っていないみたいです。ネモフィラ嬢は、ジークの事を、たぶん前世から好いていると思うのですが……。申し訳ありません」
ユリウスになったエリオット様が、ジェイドであるネモフィラ嬢と婚約──そう想像しただけで目の前が真っ暗になった。確かに二人は端から見ればお似合いだ。
ユリウスがエリオット様だと分かった時点で、ネモフィラ嬢にユリウスと結婚する意思は無いのだろう。でも、基本的に貴族の結婚に本人の意志が反映されることはない。
国王は国のためにある存在だ。自分が幸せにならなければ、国民も幸せになれないとは思うが、それが他人の幸せを踏みにじっていい理由にはならない。
「所詮、私に国王なんて無理なのよ」
私はそう言い捨てると、手にしていた書類を机の上に放り投げ、私室にある転移陣でアーリヤ国へ逃げ帰ったのだった。




