魔女の領域
城へ戻ると、解呪薬の進捗状況を聞くために、ジークのいる実験室へ向かった。
「ジーク、戻ったわ」
実験室で解呪薬を作っていると思われたジークは、何故か椅子に座って呆然としていた。
「キース様!! お戻りでしたか」
私に気がつくと、ジークは飛び上がる様にして、こちらへ来た。
「ジーク、何があったの?」
「それが、前世と違って魔力量が少ないせいか、思ったように解呪薬が作れなくて……。ネモフィラ嬢に手伝ってもらっていたのですが、どういう訳か、彼女は急に機嫌が悪くなって、部屋を出ていってしまったのです」
「何か余計なことを言ったんじゃないの?」
「そんなことは……」
「そんなことは?」
「ないと思いますけど」
「自信がなさそうね。前世では、いつも自信満々だったのに」
「魔術が思ったように使えないのが、こんなに不便だとは思いませんでした。使えなくなってから、初めて思い知らされました」
「貸して。解呪薬は私が作るわ。前世で培った知識を使わないのは、もったいないもの」
「キース様!! ありがとうございます」
私は粉末に手を翳すと、予め魔術具に吸収してあった闇の魔術で、解呪薬を作っていった。
「森へ行ってから、思い知らされたわ。森にある魔素を全て吸いとるのが、無謀な考えだってことを」
「それはそうでしょう。それに森は、もともと魔女の領域です」
「そうよね」
「キース様でしたら、時間をかければ森の魔素を全て吸いとることは可能でしょう。ですが、吸収し終わる頃には、森の魔素が少なからず復活しているでしょうね」
「どうすればいいのかしら?」
「陛下。一つ、お願いがあります」
「何?」
「先日購入した絵を、私に見せていただけないでしょうか? あの絵のことが、どうしても気になってしまって」
「絵?」
「ほら、サイモン──ではなくて、魔女が売っていた絵ですよ」
「ああ、あれは……」
あの絵は私室にある、鍵の掛かるクローゼットにしまってあった。絵が保管できるような場所がなかったのと、メイドが不用意に触れて、体調を崩されても困ると思ったのだ。
「あの絵には、何もないと思うけど……」
「確かに、あの絵は魔女が用意した物ではないでしょう。でも、興味があるのです」
「分かったわ。これを作り終わったら、ひとまず私の部屋へ向かいましょう。作戦も、そこで立てます」
私は手早く解呪薬を作ると、粉末を袋へ詰めて、私室へ向かったのだった。




