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思い違い

 馬車で城へ戻った私達は、騎士達を医務室に置いて、騎士団へ報告した。


 対策を立て直し、再び泉へ向かうために城へ戻っただけだったが、城へ着いた途端、何だか胸騒ぎがして、ジュールのいる客室へ急いで向かった。


 部屋の前まで行くと、部屋から出て来たメイドが、慌てた様子で手から何かを落としていた。


 私は嫌な予感がして、メイドに何があったのか聞かずに、部屋の中へ飛び込んだ。


「ジュール?」


 部屋には、誰もいなかった。ベッドの上にも誰もいなくて、誰かが寝ていた跡だけが残っていた。あんなに苦しんでいたジュールが、1人で部屋を出ていったとは流石に思えない。


「キース様、申し訳ありません。先ほど、花瓶の水を取り替えるために、お部屋へ入りましたが、誰もいらっしゃらなかったので、部屋を間違えてしまったのかと思い、思わず部屋を飛び出してしまったのです」


「君は──新しく城へ来た人?」


「アシュラ領から参りました、メイドのヘーゼと申します」


「この部屋には初めて来たの?」


「はい。いつも花瓶の水を取り替える方は、騒動でケガをした人達の手当てをしておりまして──新人でも、動ける人は仕事を与えられております。この部屋が、最後だったのですが、病人がいるから気をつけるようにと、それだけ言われて……」


「誰に?」


「メイド長にです」


 メイド長は、まだ決まったとは聞いていない。アーリヤ国から来た古参のメイド達は、自分達には務まらないからと、メイド長の職を断っていた。新しく募集した従業員の中から決まればいいなとは思っていたが、騒動もあり、2日で決まったとは到底思えなかった。


「ヘーゼ? まだ、メイド長が決まったとは、聞いていないのだが」


「えっ、でも、メイド長に言われたのですが……」


「ごめん」


 私は、ほとんど使ってしまった魔術薬の袋を取り出すと、残っていたクッキーの粉末をヘーゼへ向かって投げつけた。


「痛っ……」


 ヘーゼは、ヘーゼだった。ヘーゼは、制服についたクッキーの粉を軽く払うと、涙目になりながら、こちらを睨んでいた。


「陛下、酷いです。いくら恋人がいなくなって気が立っているとはいえ、何もしていないメイドに物を投げつけるなんて」


「でも、君が……」


「失礼します」


 彼女は踵を返すと、ジュールのいた部屋から出て行った。




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