恩人
いくら歩いても森の泉へは着かなかった。同じ場所を何度も歩いているような感じがして、最終的には疲れ果てて立ち止まってしまった。
「おかしいですね。とっくに着いていて、おかしくない時間なのですが……」
「先に出発した騎士の姿も見かけません。泉を見つけられなくて、入れ違いで戻ったのでしょうか?」
西日が射してくると、キラキラと煌めく太陽の光の中に緑の光のようなものを見つけたような気がした。
「ジーク!! あれは持ってる?」
「あれとは?」
「幻影の魔術を解呪するクッキーの粉末よ」
「はい。魔女対策で持って来ておりますが、量はありませんよ?」
「構わないわ。貸してちょうだい」
「はい──どうぞ」
私はジークから粉末を受け取ると、一度緑の光が見えた方向へ向かって、粉末を投げつけた。
「「え?」」
木しかないと思っていたそこには、道があり、奥へ続いていた。
「隠し通路?」
「いえ。幻影の魔術で道が無いように見えていただけでしょう。この先に泉があるのかどうかは分かりませんが、とりあえず先へ進んでみますか?」
「そうね──そうしましょう」
同じ場所を何度も回っていた私達は、新しく現れた道へ進むことに決めたのだった。
3人で先へ進むと、道が二手に分かれている二股の場所へ出た。分かれ道の手前に、水を汲みに行った3人の騎士が倒れている。
「大丈夫か?」
「き、キース国王陛下?」
3人は、立ちあがって騎士の礼をしようとしていたが、フラついていてお辞儀が出来るような状態では無かった。
「そのままで構わない。何があった?」
「何も──何もありません。ただ、泉へ辿り着く前に力尽きて動けなくなっただけなのです」
「馬車で半日もかからない場所なのに? 道に迷ったのか?」
「いえ、そうでは無いのですが。上手く言えませんが、同じ場所を何度も歩いているような気がしてならないのです」
「そうか」
私達と同じ状態に陥っていたと聞き、魔術が使用された可能性が高いと思った。
「君達は、ここで休んでてくれ。私達が泉へ行って来る」
「陛下。これは、罠である可能性が高いと思われます。行くのはお止めになった方が……」
「私はジュールを見殺しになんて、出来ないよ。例え自分の命に代えてでも、彼を守ってみせる」
ジュールは私を庇って傷を負った。この恩に報いるためにも、せめて薬だけは用意してあげたかった。
「愚問でしたね。陛下、余計なことを言いました。申し訳ありません」
「構わない。行くぞ」
騎士達は私とジュールの関係が婚約関係にあると、勘違いしているのだろう。私がそう言うと、曖昧な表情で微笑んでいた。
「陛下、それくらいにしてあげてください」
ジークにマントを引っ張られて、振り返ると、そこには傷ついたような顔をしたユリウスが立っていた。




