戴冠式
戴冠式は、次の日の昼過ぎに謁見の間で行われた。厳正な雰囲気の中、冠を台座の上から手に取ると、私は目の前へ掲げた。
少人数で行われる予定だった戴冠式には、国王の顔を覚えてもらうためにも、新しく城へ仕えることになった人達に参加してもらっていた。
「おぉぉぉぉ……」
冠を被ると、感嘆の声や拍手が響く中、その出来事は起こった。
謁見の間の中央奥に続く赤い絨毯の上で、突風が起こったかと思うと、そこに魔女が現れた。長い着丈の真っ黒なローブに、三角帽を被った魔女は、顔を上げると私へ向けて手を翳した。
「アーリヤ国での呪いが解けて、私の手を離れても、逃れられたと思わないことだ。私の苦しみは終わらない──永遠にな。共に滅べ!! 消滅せよ!! 消滅魔術!!」
急に放たれた闇魔術に、怯みそうになったが、目の前に手を翳し、意識を集中させて闇の魔術を吸収した。
アイリスの時とは違い、キースの魔力量は底なしだった。識る力を使って魔術を解体して魔力を吸収していく。
「ばかな?! 人族に、そんなことを出来る奴は、いなかったはず……」
魔力を全て吸収した瞬間、別の方角から矢が飛んできた。魔女に気をとられていたせいか、気がつくのが僅かに遅れた私は、身体に矢が突き刺さるのを覚悟した。
──────ドンッ
横から受けた衝撃に、私は尻餅をついた。不思議に思いながら顔を上げると、そこにはジュールが立っていた。
「!!」
「ジュール!!」
一瞬の出来事だった。ジュールの身体に矢が刺さり、ゆっくりと目の前に倒れていった。
「衛兵、そこにいる魔女を捕らえよ!!」
「はっ!!」
ジークが前に出て、衛兵を指揮していた。衛兵が動く前に、魔女は謁見の間から姿を消していたのだった。




