キースの正体
「キース様。お部屋へ戻る前に、少しお話よろしいでしょうか?」
ジュールが私の側へ来て、手を差し出していた。
「──分かったわ」
私はジュールの手の上に手のひらをのせると、そのまま中庭へ続く小道へ歩いて行った。
小道を抜けて東屋へ辿り着くと、私達は向かい合わせにベンチへ腰掛けた。ジークは帰ったみたいだったが、後をつけるように後ろからユリウスが来ていた。
向かいのベンチへ座ったジュールは、居心地が悪そうに座り直すと、居ずまいを正して言った。
「あの、キース様。不躾にすみません。以前に知っていたキース様と、あまりにも違いすぎたので、その……」
「正直に言ってくれて、構わないわ」
「いくら考えても、今のキース様は、これまでと違いすぎて、別人のような気がしてなりません──しかしながら、ユリウスやジークは普通に接している。私がおかしくなったのでしょうか?」
「ジュールは、何も悪くないわ」
「本当のことを、話してはもらえないでしょうか?」
「それは──ジュールは知らない方がいいと思うの」
「私には教えてはくださらないんですね。ユリウスは知っているのに」
「なっ……」
前世でエリオット様に言われた事と、同じようなことを言われてしまった。
「いくら記憶が無くなったとはいえ、私の知っているキース様とは別人です。キース様はどこにいるんですか? いるんでしょう? 返してください」
「ごめんなさい」
「やっぱり、あなたは別人なんですね? 見た目だけ同じで中身が違うなんて、詐欺です。彼女は、どこにいるんですか?」
「……」
私は何も言えずに、ただ首を横に振っていた。
「キースを返してくれ……」
「ごめんなさい。私は他の世界から、この世界を救うために来た招かれざる客人です。彼女は──ここへは、戻ってきません」
「は?」
「ごめんなさい。それ以上は言えません。この世界の『神』のご意志ですから」
「神──アース神ですか?」
「ノーム様です」
「分からないが、にわかには信じがたい」
「信じてもらえなくても、それが真実です」
「帰ります」
「ジュール?」
「あなたはあなたで、幸せになってください」
そう言って、私に背を向けたジュールは、一度も振り返ることなく、中庭を出て廊下の奥へ消えていった。




