転生者達
「失礼します」
扉を開けて入ってきたのは、ユリウスだった。ユリウスは、ティーセットが載ったワゴンを押して中へ入ってくると、扉を閉めてお茶を淹れていた。
その姿に既視感を覚えた私は、ユリウスの手元を凝視していた。エリオット様がお茶を淹れるのを見たことはなかった。けれど、カップを手に持つ仕草や、困った時に髪に手を触れる仕草は、以前と変わらなかった。
「まさかとは思うけど──エリオット様なの?!」
「アイリス、久しぶり」
「うそぉ?!」
私は城の関係者や街にいる人達に、エリオット様の姿を重ねては思い描き、ずっと探していた。それなのに、まさか、こんなにすぐ近くにいるとは夢にも思わなかった。
「だから、言ったじゃないっすか──消去法で考えたら、ジーク様しかいないって」
私は感動のあまり涙を流しながら、お茶を淹れているユリウスを見つめていた。
「どうぞ、キース様」
「エリオット様!!」
お茶を淹れ終わったユリウスに抱きついてしまったが、ユリウスは私をそっと抱きしめ返すと、肩を掴んで自分から引き剥がした。
「キース様。私もキース様に会えて嬉しいのですが、状況は芳しくありません。私はカルム伯爵に、自分が想像していた以上に気に入られておりますし、キース様にはジュールがおりますので……」
「えっ?! ジュールと私は、友人ではなかったの?」
「表向きはそうなっていますが、国王は自分の娘に好きな人と結婚して欲しいと思って、ジュールをこちらへ送り出したのだと思います」
「でも、そんなこと誰も……」
「言わないでしょうね。記憶を無くしたキース様に、そんなこと誰も言えません。しかも、ジュールは精神不安定な状態が続いてます。たぶん、2人が落ち着いてから具体的な話はしようと──おそらく、周りの人達はそう思ったのでしょう」
「そんな……。私はキースじゃないのに」
ジークことオーベル様は、咳払いをすると姿勢を正して言った。
「私は国王から密命を受けています。カルム国が建国されるまでに、次期王配を決めよと。前例はありませんが、王配以外に伴侶を得ることも可能だと思われます」
「ジュールが王配になることは決定事項なの? 誰も何も言ってくれないのね。私には、エリオット様だけなのに」
「キース様。私にも、キース様だけです。でも、ジュールをこのままにしておくのは難しいでしょう。もともと侯爵家の出ですし、アーリヤ国宰相の御子息ですから」
「……」
ジークの言葉に、溜め息を吐いた私を見てモネが言った。
「やっぱり、白い結婚をするしかないわよね?」
「白い?」
「白って?」
モネの言葉に、私とジークは首を捻った。何処かで聞いたことのある言葉だとは思ったが、全くと言っていいほど思い出せなかった。
「契約結婚みたいなものですよ。お互い愛情がないのに、条件を元に結婚するんです。でも、だいたいのライトノベルで『いきなり溺愛されて』とかで、幸せな結婚をするんですけどね」
「そう言えば、そんな話あったわね。モネもライトノベルなんて読むの?」
「いえ。日本にいた頃、ノンちゃんがライトノベルの話を、よく聞かせてくれたんです」
「へー、ノンちゃん。前から思ってたけど、ジェイドも隅に置けないわよね」
「キース様? 何を仰ってるんです?」
「白い結婚、応援してるわ」
「いや、白じゃなくて普通の結婚がしたいっすよ」
「でも、いいんじゃない? 白くても白くなくても、何だか幸せそうだし?」
「「キース様!!」」
私の言葉に過剰に反応したジークとネモフィラ嬢は、めちゃくちゃ怒っていた。でも、言い合っている2人を見て、私は仲がいいのが悪いのか、良く分からないと思ったのだった。




