生きる理由
「どうしたんだ?」
ユリウスの後ろにいたジークは、話を聞いていなかったのか、サイモンがユリウスと言い争っているのを見て、唖然としていた。
「ジーク!! お前からも何か言ってくれよ。コイツが陛下の側近になりたいとか、ふざけたことを言ってるんだ」
「そうだな──根回しとか必要になるが、陛下が必要だと判断したんなら、いいんじゃないか?」
「いや、しかしだな……」
ジークの言葉が意外だったのか、ユリウスは困惑していた。ユリウスはユリウスで、暗殺されかけた私の身を案じているのだろう。
「ジーク様は、俺のことが分かってるみたいだな」
「真面目にやれよ」
ユリウスはひと言だけそう言うと、部屋を出ていった。
「ユリウス?」
幼なじみの様子がおかしいことに気がついたジークも、ユリウスの後を追いかけて部屋を出ていってしまった。
二人の様子に気をとられていた私だったが、ベッドに寝ていたジュールに、いきなり手を掴まれて驚いた。
「キース様?」
「なに?」
「キース様の側にいていい?」
「側に?」
「ダメ?」
「──ダメな訳ないじゃない」
「よかった」
ジュールは子供に戻ったかのように、私の手をしっかりと握っていた。その様子は、幼子が親に捨てられまいと、必死にしがみついてくる子供のようでもあった。
私は死の淵から這い上がろうとしている手を、振り離すわけにはいかないと思った。きつく握りしめてくる手を、そっと握り返す。
「ゆっくり休んで、早く良くなってね」
「うん」
その日はジュールが眠るまで、ずっと側にいて、彼の手を握りしめていたのだった。




