思惑
それから1週間後には、城が完成していた。城が出来るのが、早すぎじゃないかと思ってジークに聞いたら、急にアーリヤ国から手伝いの魔術師が来て、一気に仕上がったという話だった。最終的な確認が終われば、明日から城に住んで構わないということだ。
「アーリヤ国王は一体、何を考えているんだろうな。新しい国を作って、娘に任せるとか──悪口を言うつもりはないが、どうしたいのか、全くと言っていいほど分からない」
私は宿屋の1階で遅めの朝食を摂りながら、ジークと話をしていた。採れたての新鮮な野菜サラダが美味しい。
「ユリウスの話だと、カルム国の属国というよりは、傘下に入って協定を結ぶ感じみたいだよ。父上の事も覚えてないから、何も言えないけど」
「そうだよな、変なことを言ってすまない」
「気にしないでくれ。それよりジュールはどうするんだ? こっちに来たのが、何故かは分からないけど、あの状態でずっと宿屋に置いておくつもりなの?」
ジュールはユリウスが宿屋に連れ帰った後、部屋から出て来なくなってしまったので、あれから顔を合わせていなかった。何度か声を掛けに行ったが、話をすることすら出来なかった。
「いや、城が完成したら連れていくよ。たぶん、キースが記憶喪失と聞いて、誰かがジュールが側にいれば、記憶が戻るとでも思ったんじゃないのか? 二人はその──そういう関係だったみたいだし」
そんなことを言われても、中身は全くの別人だ。もう二度と記憶が戻らない人が側にいても、意味が無いのではないかと思ったが、何も言えなかった。
「元気を取り戻してくれるといいけどね。新しい城で、仕事に復帰できるか様子を見るしかなさそうだね」
「俺もジュールの事は、注意して見ておくよ。ほっとくと、そのうちフラッと出て行きそうだからな」
食堂でそんな話をしていると、宿屋の入り口が騒がしくなり、フードを被った男が、慌てた様子でこちらへ駆けてきた。
「キース、街の人に聞いたんだけど、細身で青い髪の人ってキースの知り合い?」
聞き覚えがある声に振り返ったが、誰だか分からない。そのまま首を傾げると、フードを被っていた男は顔を見せた。
「あなたは──サイモン!!」
「今朝、ミリル川に飛び込んだ奴がいて、自警団で保護してるんだ。みんなで話してるうちに、それがキースの知り合いじゃないかって話になって……」
「「!!」」
「一緒に来てくれるか?」
「もちろん」
私は席を外していたユリウスを呼びに行くと、サイモンを含めた四人で街の自警団へ向かったのだった。




