恋人ではない恋人
彼は泣き疲れたあと、眠ってしまった。教会の床へ寝かせると、自分の上着を彼の上へ掛けてあげた。
「陛下、それでは陛下が風邪をひいてしまいますよ。こちらを、どうぞ」
「ありがとう、ユリウス」
ユリウスは自分が着ていた上着を脱ぐと、私の肩に掛けてくれた。夜になると少し冷え込むため、彼の言葉に甘えることにした。
「彼とは親しかったのかしら? 何も覚えてないと、どうする事も出来ないわ。私に記憶が無いことも知らないみたいだし……」
「少し、様子を見ましょう。何かあれば、遠慮なく仰ってください」
(遠慮なくって言ってもねぇ。私とジュールが深い関係だったのか、私に聞かれてもユリウスも困るわよね)
「陛下。陛下とジュールは友達同士みたいな関係でしたよ。ただ、私やジークよりも仲が良かったというだけです。手は握ったことはあったかもしれませんが、それ以上の関係は無かったと思われます。陛下が王族でしたし、お互い慎重だったのでしょう」
疑問に思っていたことが顔に出ていたのか、ユリウスは戸惑いながらも教えてくれた。けれど、そう言ったユリウスの顔は少し悲しそうだった。
「……」
「たとえ友達同士だったとしても、お互いに好意があるのは、誰もが気がついていたと思います」
「ユリウスは、どうして悲しそうな顔をしているの?」
「え?」
「ジュールの話をする時のユリウスは、すごく悲しそうにみえるわ」
「ジュールと陛下を大切に思っているからですよ。宿屋に戻りましょうか」
ユリウスはジュールを背中に背負うと、馬車まで運び、ジークと共に宿屋へ戻った。その様子は、いつもと変わらないように思えたのだった。




