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キースの恋人

 馬車に乗って城へ向かうと、城門前にはジークが立っていた。馬車の中でユリウスから聞いた話によると、私には恋人がいたらしい。王家などでの取り決めではなく、純粋な恋人同士ということだった。


 恋人であるジュールは、城の優秀な文官で、国が新しく始める事業のために、領地へ派遣されることが決まっていた。けれど、私が暗殺されそうになった時、彼の妹であるミライアが私の盾となり、帰らぬ人となってしまった。


 ミライアは普段は花屋で働いていて、王都で行われる祭りのために、たまたま城へ花を届けに来ていて──そこで襲撃に巻き込まれていた。


 そのことに驚いた私は、暗殺者を返り討ちにする際、動揺してしまい、魔力を操りきれずに暴発させてしまったらしい。


「早かったな。ジュールは、教会にいるぞ」


「ジーク。記憶の無い私が会いに行って、本当に大丈夫なのか?」


「いいんじゃないか? 話になるかは分からないが」


 ジークにそう言われて向かった教会の中は、壁を塗装したペンキが乾ききっていないのか、鼻を突く臭いが漂っていた。


 祭壇の下にある階段には、見知らぬ男性が座っていた。膝の上には魔術具のような小箱が置かれており、ドライバーのような工具で、直しているようだった。


「陛下、彼がジュール・ヴァンヌです」


 私はユリウスに連れられて、彼の目の前まで行った。けれど、彼が顔を上げることは無かった。


「ジュール? 私だ。キースだ」


「……」


 彼の手が一瞬、ピクリと動いた気がしたが、見間違いだったのか、彼は作業に没頭していた。


「ユリウス、彼には私の声が聞こえていないのだろうか?」


「いえ──おそらく、精神的に滅入ってしまい、自我を保つのが難しいのでしょう」


 どうすることも出来ないまま、暫く彼の作業を見ていたが、こちらを見ようともしない様子だったので、諦めて帰ろうとした──その時だった。


「何でなんだよ!! 何でミライアが死ななきゃならなかった。あの子は、まだ16だったんだ。何でお前が生きて──いや、違う。君のせいじゃない、君のせいじゃ……」


 急に泣き出してしまった彼に驚いたが、彼が恋人であるならば、ここは慰めるべきだろう。


「大丈夫だ、大丈夫だよ。ジュール……」


 私は彼を抱きしめると、泣き止むまで彼の背中を撫で続けたのだった。




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