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心配事

 絵の値段は、私達が泊まっている宿屋の3日分の宿泊代と同じ金額だった。絵を持ってきたサイモンへ袋に入ったお金を渡すと、彼は一礼をして部屋を出ていこうとした。これっきりになってしまう気がして、私は思わず彼の事を呼び止めていた。


「また──会えるか?」


「え?」


「いや。変なことを言ってすまない。また何かあったら、呼んでくれて構わないから」


 私は彼が商人であることを忘れそうになっていた。見た目はエリオット様でも、中身は明らかに別人である。


「心配してくれてんのか? ありがとう」


「キース様!! 端々まで気を配っていただくのは結構ですが、そういった事は仰っていただければ、私がやりますので……」


「ありがとう、ユリウス」


「それでは、失礼致します」


 彼は再び一礼をすると、今度こそ部屋を出ていった。彼自身が、エリオット様を見つける手掛かりのような気がしていたのかもしれない。


「キース、あの少年に一目惚れしたのか? やめておけ。後で自分が辛くなるだけだぞ?」


「いや、そんなんじゃない」


 ジークは、私を見ると肩をすくめた。どうやら彼は、私の言葉に疑問を持っているようだ。


「俺は幼少の頃からキース様にお仕えしております。ですが、あんな人物と関りを持っているのを見たのは初めてですし、似たような人物にも心当たりがありません。記憶を失っているとはいえ、どうしてあのようなことを仰ったのですか?」


「えっと、それは……」


 昨日の夜遅くまで読んでいたミニノートの内容を、私は思い出していた。ジークとは乳兄弟で、幼いころから苦楽を共にし、勉学や剣の稽古を一緒に励んだと書いてあった。


 けれど、私の恋愛事情が把握できるほど、四六時中一緒にいたとは思わなかった。私が口ごもっていると、ジークは溜め息をつきながら言った。


「すみません。少し言い過ぎました。頭、冷やしてきます」


 部屋を出ていったジークを見ていたユリウスは、側まで来ると心配そうな顔で、私を見つめていた。


「口は悪いですが、根は良い奴なんですよ。心配しているんです、陛下のことを」


「ええ。そうなのでしょうね」


 いまだ部下との距離感を掴めないでいる私は、もともとのキースの性格が、どんな性格だったのか分からないなと思いながらも、キースの過去へ思いを馳せたのだった。




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