街の市場
次の日の朝早く、私達3人は視察という名目で、カルム領の中心部にある市場へ向かった。
カルム領で1番栄えているという街の市場には、新鮮な野菜の他に、肉や魚も売られていた。それだけではなく、近くには屋台も出ている。
「すごい活気──見て、ユリウス。生の肉や魚よ」
「第3王子のスピンズ様ですよ。彼の発明したマジックバッグによって、最近は新鮮な肉や魚を、他の地域や国から大量に仕入れる事が出来るようになったのです」
「魔力量が多いだけの私とは、大違いね」
(以前のキースと違うと思われても困るわね。とりあえず、落ち込んでるふりでもしておけばいいかしら? それと、識る力が使えるってことは、しばらく秘密にしておいた方がよさそうね)
「陛下──陛下の、そのお力があるからこそ、私達は安心して暮らしていけるのです」
「ありがとう。ユリウス」
ユリウスは私の両手を、しっかりと掴むと真剣な表情で私を励ましていた。
(どうしよう。真面目に励まされてしまったわ)
「何やってんだ? お前ら」
「ジーク!!」
ユリウスはジークに見つかって、慌てて掴んでいた手を離していた。
「どこって、怪しい奴がいたから、追いかけてたんだけど見失った。お前ら、気がつかなかったのか?」
「怪しい? ただ、それだけで?」
「怪しい魔術具を売ってた。闇市場に出る一歩手前のやつ。全く──イチャついてでもいたのか?」
「いや、そんな訳……」
否定するために、同意を得ようとしてユリウスのいる方向を振り返って見てみたが、彼は照れくさそうに俯いていた。
(え? 待って。そんな反応じゃ、返って誤解されるわよ!!)
「いや、違うから!!」
「ムキになってると、ますます怪しいぞ?」
「ジーク。その魔術具、私にも見せてくれるか?」
私は話を逸らすと、ジークに広場の先にある市場へ案内するように言ったのだった。




