疑問
「それって僕は先輩が主人公の小説を書けってことですか?
流石に僕にメリットないですよね?そこまでする必要ってあるんですか?」
今提案されたことについて鵜呑みすることはできない。
僕だってほぼ帰宅部とは言え、帰宅して眠りたいし、宿題とか最低限やらないといけないことだってある。
それなのに、やらなくてもいいことをやるのは嫌だ。
「だよね〜。私もそう思うんだよ。
でもね、これって君にしかお願いできないことだなって直感でそう思った。
多分、君の、あぁ〜、やっぱいいや。なんでもない。
君にメリットはなくても、私はどうしても君にお願いしたい。
君に書いて欲しいの。」
さっきまでまっすぐ僕の目を見て話していた先輩は目を逸らして気まずそうにそう呟いた。
「僕は理由がわからないまま書かなきゃいけないのは嫌です。
今のままだと書く気はさらさらないです。」
断固として僕は書かない姿勢を貫く。
「うん。そうだね。そうなんだよ・・・。」
ゴニョゴニョと先ほどとは打って変わって歯切れが悪くなった。
今先輩がうまく話せないのは、感情の部分なんだろうか。
「先輩の気持ちの問題なら、ちゃんと話してください。
僕はちゃんと納得しないと、どうするか決められません。」
「私はね、自分のことが嫌いで、自分の気持ちを誰かに押し付けたくなくて。
自分の我儘で誰かを困らせたりしたくなくて。
まぁ、実際困らせちゃってるんだけど、今ね。
傷つきたくないの。自分の感情が関わるところで。
自分が自分を肯定しきれないから、誰かに否定されるともう戻って来れなくなる気がする。
だから、あんまりはっきり言いたくない。わかってるんだけど。」
そう言いながら頭を抱えて、しゃがみ込んだ。
それを見ながら、僕は先輩が次に吐き出す言葉を待った。
待ち続けた。
外から運動部の掛け声が聞こえてくる。
それにかき消されそうなくらい小さい声で聞こえた。
「多分ね、君のこと好きなんだよ。」