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清州城下は、突如として訪れた異形の美しさに沸き立っていた。


白羽の陣羽織を翻す上杉謙信の姿は、まさに天下無双の美将と呼ぶにふさわしい。その横には、若き武将・前田慶次の姿があった。赤い陣羽織が朝日に映える様は、まるで浮世絵から抜け出してきたかのよう。


千鶴は城砦から、その光景を見下ろしていた。


「謙信様、お気を付けて」光秀が眉をひそめる。「あの方、城内の宿割りが気に入らなければ、直接打ち合わせを要求されかねない」


「いえ」千鶴は意外な事実を告げる。「謙信様は『戦国武将品評録』の愛読者として知られています。きっと、私たちの意図を...」


その時、慶次の声が城内に響き渡った。


「これぞ山県昌景殿を描いた『越後絵巻』の最新作!城下の皆、見てくれ!」


千鶴たちは愕然とする。慶次は城下で、堂々と同人誌の内容を披露していた。しかも、その手には明らかに『越後絵巻』のコピー本が。


「あの方」光秀が呆れたように呟く。「相変わらず型破りな...」


「いや」謙信の声が、不意に後ろから聞こえた。「慶次の率直さは、武将として、そして同人作家として、見習うべきところがある」


「え?」千鶴たちが振り返る。


上杉謙信は、いつの間にか城砦に上がっていた。その手には、丁寧に包装された書物の束。間違いなく、即売会...いや、同盟会議に向けた「準備品」である。


「千鶴殿」謙信は穏やかな微笑みを浮かべる。「噂には聞いていた。織田家の姫君は、文化人としても優れた手腕をお持ちだと」


千鶴は言葉を失う。城下では、慶次が熱心に自作の同人誌を解説し続けていた。その周りには、ひそかな同志たちが集まりつつある。


「困ったものですな」光秀が頭を抱える。「これでは、私たちの密かな企みが...」


「いや」謙信が静かに言う。「それこそが、新しい時代の幕開けなのかもしれん」


千鶴は、はっとして謙信を見上げた。その瞳に浮かぶ確信。そして、城下で自由奔放に同人誌を語る慶次の姿。


二人の美将が、それぞれの形で示す「文化」への想い。それは、千鶴の胸に新たな決意を灯した。


この「同盟会議」は、もはや単なる密やかな集いではない。それは、戦国の世に新たな風を吹き込む、大きなうねりとなるのかもしれない。


「千鶴様」蘭丸が慌ただしく駆け込んでくる。「城下で、噂が...」


城下町は、かつてない活気に沸いていた。慶次の周りには、ますます人が集まっている。そして、その熱気は、清州城全体を包み込もうとしていた。

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