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夜明け前の清州城は、いつもと違う緊張感に包まれていた。


「城内の空き部屋、すべて点検済みにございます」


千鶴は、侍女頭から受け取った報告書に目を通す。父・信秀の時代から仕えてきたベテランの女官は、若き姫の新たな役目に戸惑いを隠せない様子だった。


「美濃攻めの同盟会議とは申せ、これほどの規模での宿泊者の受け入れは...」


「心配ご無用です」千鶴は凛とした声で答えた。「すべては兄上の采配。私たちは、その意図を形にするだけ」


しかし、その言葉とは裏腹に、千鶴の心は複雑に揺れていた。総合奉行という重責。しかも、その実態は大規模な同人即売会の主催者という、誰にも言えない真実。


「千鶴様」明智光秀が恭しく姿を見せる。「宿割りの原案が出来上がりました」


差し出された図面には、緻密な計算に基づいた配置が記されている。各大名家の格式や、普段の関係性、そして密やかな趣味の傾向まで、すべてが考慮されていた。


「さすがは光秀様」千鶴は感心して図面を見つめる。「上杉家と武田家は完全に離れていますね」


「はい。また、それぞれの近くに、『最強武将論』派と『恋愛物語』派の部屋を配置しております。万が一の衝突を防ぐため」


その時、廊下を駆ける足音が響いた。前田利家が、珍しく狼狽えた様子で飛び込んでくる。


「千鶴様!大変です!」


「何事ですか?」


「加賀より急報が!」利家は息を切らしながら報告する。「我が同好会のメンバーたち、なんと甲冑の製作に夢中になりすぎて、一晩で三着も完成させてしまい...このままでは、運び込む荷物が膨大な量に」


千鶴は思わず頭を抱えそうになるのを堪えた。城内に大量の甲冑を搬入するとなれば、その保管場所の確保も必要になる。しかも、それらは通常の武具とは異なる、いわば「コスプレ用」の装束なのだ。


「利家様」千鶴は冷静さを保ちながら言う。「すべての甲冑に、ちゃんと『実戦用』という札を付けてくださいませ。見た目は本物そっくりなのですから」


「さすが千鶴様!」利家の目が輝く。「これなら怪しまれることもありませんな」


その時、蘭丸が静かに部屋に滑り込んできた。


「千鶴様、信長様より急ぎのご用件が」


千鶴は身構える。しかし、蘭丸の次の言葉は、誰もが予想だにしなかったものだった。


「なんと、徳川家康殿より使者が」蘭丸は声を潜めて続ける。「『同盟会議』への参加を、強く希望されているとか」


千鶴の表情が強張った。徳川家康—その名は、単なる一大名としてではなく、密かな「同人界」では別の意味を持っていた。なぜなら彼は...。

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