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清州城の夜は更けていった。千鶴の部屋では、光秀と利家を交えた緊急の作戦会議が行われていた。


「即売会まで、約二十日」光秀が巻物を広げながら説明する。「城内の空き部屋は全部で四十二室。これを各大名家の格式に応じて配分し、かつ同好の士同士が交流できるよう配置せねば」


「しかも」利家が付け加える。「表向きは美濃攻めの会議。怪しまれぬよう、武具の搬入などにも気を配らねば」


千鶴は二人の真剣な表情に、思わず笑みがこぼれそうになる。かつて誰にも言えなかった秘密の趣味が、今や織田家の一大事業となろうとしているのだ。


そこへ、蘭丸が密やかに姿を見せた。


「千鶴様」彼は声を潜めて言う。「信長様より、これを」


差し出されたのは、一枚の巻物。開いてみると、そこには信長直筆の文字があった。


『美濃攻めに向けた同盟会議の総合奉行を、千鶴に命ず』


「まさか...」千鶴の声が震える。


「つまり」光秀が静かに言葉を継ぐ。「表向きは同盟会議、実質は即売会の...総責任者ということですね」


千鶴は深く息を吸った。これは単なる即売会の運営ではない。諸大名との外交、城内の警備、そして何より、この密やかな文化の保護。すべてが彼女の双肩にかかっているのだ。


「光秀様」千鶴が決意を固めて言う。「宿割りの件、よろしくお願いします。特に武田家と上杉家は、できるだけ離してください。去年の即売会での『最強武将論争』の一件がございますので」


「承知いたしました」


「利家様」千鶴は前田家の若き当主に向き直る。「加賀から参加される同志たちの取りまとめを」


「おまかせを」利家の目が輝く。「拙者の『戦国コスプレ同好会』のメンバーたちも、喜んでお手伝いさせていただきます」


その時、廊下を駆ける足音が聞こえた。侍女の一人が、青ざめた顔で飛び込んでくる。


「千鶴様!大変です!」


「どうしたの?」


「京の町で、噂が広まっているとか」侍女は息を切らしながら報告する。「清州城で『何か』が行われる、と。しかも、参加を望む人々が、続々と」


千鶴は一瞬、目を見開いた。しかし、すぐに冷静さを取り戻す。


「光秀様、利家様」彼女の声には、不思議な威厳が宿っていた。「明日から本格的な準備にとりかかりましょう。この『同盟会議』を、必ずや成功させねば」


二人の武将が頷く。そして千鶴は、机の上に広げられた城内の見取り図に目を落とした。まるで、戦の布陣を考えるように。


実のところ、これは本当の意味での戦なのかもしれない。表の顔と裏の顔、威厳と趣味、秩序と混沌。相反するものが交錯する中で、新しい時代の文化を守り育てる戦い。


そして千鶴は、自分がその最前線に立つことを選んだのだ。


窓の外では、朧月が清州城を優しく照らしていた。まるで、この密やかな挑戦を見守るように。


しかし、誰も気付いていなかった。この「同盟会議」が、思いもよらぬ方向に発展していくことに。そして、それは戦国の世に、新たな波紋を広げることになるのだ。

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