第6話 お見舞い
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ユークスが目覚めてから、ひっきりなしに人がやってきた。貴族から八百屋さんに青果店、精肉屋さんとかどこで関係を持ったか分からない人達まで。もっとも、貴族はただ権力者に媚びているだけみたいだけど。そういえば一人だけ妙に嬉しそうにしていた人がいたっけ。
「ユークス、、、様。よくぞご無事で。」
「いやー、俺からしたらただ寝てただけだから。」
「よかったです。あなたがいないこの国に価値などありませんから。」
「いやいやいや、それ誰かに聞かれたらどうするの。」
「心配ありません。私に逆らえる貴族など片手ほどしかいませんから。」
年齢は40代くらいの眼鏡を掛けた紳士、というのがその人の印象だった。有力な貴族で奥さんはいるが子供がおらずユークスのことを実の子供のように思っているらしい。貴族の中では唯一ユークス派閥にいる変わり者とされている。ユークスは第3王子だし、王様に興味ないみたいだから当然だけど。
「我がサファイア家はユークス様のためにおります。
今後は厳重な警備を、というか王様にこれからもの申してきます。
息子がこんな目に遭わせるなど言語道断。」
「えっと、それはやめてくれ。
ヴォーグは父様のことほんと嫌いだな。」
「いえ、嫌いなんて滅相もない。ただユークス様の実の親でなければ今すぐにでも地に落として
辛酸をなめさせてあげたいと思っているだけです。」
「も、もはや嫌いで済む問題じゃないな。」
そして、ドーラも来てくれた。
「えっと、この度はお元気になられたようで本当によかったです。」
「ありがとうね、来てくれて。」
「いえ、ローズと遊ぶついでなので。」
「う、うん。ほんとのことだろうけどできれば言わないで欲しかった。」
ドーラは言葉とは裏腹に、ユークスの病状を聞いてすぐに駆けつけてくれた。初々しいなぁ。10歳の初恋かぁ。これは応援してあげないとね。私はユークスの妹なんだから。
ドーラが帰り、次の日。ユークスが目覚めてから三日後。
コンコン。
「お兄ちゃん、入るよー。」
ドアを開けると、なぜかユークスは窓から部屋を出ようとしていた。
「な、なにやってるの?
お医者さんに一週間は絶対安静って言われたでしょ!」
私は必死にユークスの服を掴む。
「許してくれ、ローズ。
今日はあいつが来るそうなんだ。」
「あいつ?」
バン!
勢いよくドアが開き、一人の女の子が。茶色い髪に黒い瞳。顔は幼く見え、まるで和風美人と言ったところか。
「ユークス様、よかったーご無事で。」
邂逅一番、私をはねのけてユークスに抱きつく少女。
「いきなり何ですか!
あなたは一体。」
「私はドリー・ブロンズ。
ブロンズ王国のお姫様ですわ。」
「ぶ、ブロンズ王国?」
それって確か昔ユークスがお世話になった国だったはず。そこで知り合ったのかな。
「ドリー?
悪いんだけど、俺今日これから魔法の授業があってさ。」
「まぁそれは大変。今すぐその予定をキャンセルしましょう。
せっかくの二人の時間をそんなものに邪魔されては適いませんわ。」
「そんなものって。ま、まぁちょっとくらいはいいか。」
「それでは早速、私の膝に。」
「膝?なぜに。」
「膝枕したいからに決まってます。
これで男はイチコロだとお母様がおっしゃっていました。」
「な、なるほど。
いや、なるほどじゃねぇわ!
そういうのは好きな男にするものであって。」
「じゃあ問題ありません。
私はユークス様を愛していますから。」
「あ、愛して。いや、そんな、、、うん。ならいいのか?」
完全に押し負けてる。これがブロンズ家の王女。そして、マリーさんの妹か。
「あ、ローズ。ちょっと良いか。」
ユークスは王女様を引き剥がし、私に耳打ちする。
「(マリーを呼んできてくれ。)」
「(うん、分かった。)」
「内緒話なんてよくありませんよ。」
「大した話じゃないって。」
私は急いでマリーさんを呼んできた。でも、この二人って今どういう関係なんだろう。
「あ、マリーさん。」
「これはこれはドリー様。
今日もユークス様を困らせてらっしゃるのですか?」
「ち、違います。これはその、愛情表現と言いますか。」
「愛情表現というのは相手を喜ばせるためにするものです。
あなたのはただの迷惑行為ですよ。」
「そ、そんなこと言って私とユークス様の関係に嫉妬されているのでは?」
「はい?
そんなことあるわけないでしょう。八つ当たりはやめてください。」
「や、八つ当たりじゃないもん!」
なるほど、喧嘩するほど仲がいいってことね。
「ふぅ、これでよし。
なぜか知らないけど、妙にあの二人は相性よくてさ。初めて会ったときも仲良くしてた。」
それはまぁ、実の兄弟だし。ていうか、ユークスってシルバー王国とブロンズ王国の王女に気に入られてるってこと?
これは、確実に修羅場になりそうね。
賑やかな部屋を出て、私はゆっくりと歩き出す。
私が今やらなくてはならないこと。それは、ナーザを使ってユークスに毒を盛った犯人を見つけること。絶対、捕まえてあげるわ。そして地に叩き落として、泥水をなめさせてあげる。
「で、あの王子は無事だったのか。」
「はい、まさかあの毒を浄化できるものがいようとは。」
「まぁいい。
スカーレット王国には適当に報告しておくさ。
次のターゲットは本命、第2王子だしな。」