第5話 魔法生成
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今まで、辛いことは沢山あった。両親に愛想を尽かされたり、兄弟からいじめにあったり、婚約者から暴力を振るわれたり。そんな時でも私は涙を流すことはなかった。
なのに、今涙が止まらない。視界が滲んで、足の力も抜けていく。
その場に座り込んで、そのままもう起き上がれないような気がした。そう、私は3度の人生を歩んできて初めて大切なものができたのだ。それを今、失おうとしている。
どうして、ユークスが。王子だから?そんな理由で殺されるなんてあんまりだ。だって私が出会ってきたどんな貴族よりも彼は優しかった。
「ご、ごめんなさい。私、取り返しのつかないことを。」
ナーザは震えるような声でその言葉を口にする。
もし、その相手がユークスでなければもっと冷静にいられただろう。
「ナーザ。少し黙ってて。」
「う、うん。ごめん。」
私は立ち上がり、ユークスの元へ行く。
胸に耳を当てると、心臓の音が聞こえた。
保健室の先生に寄ると、ユークスが盛られた毒は精神を破壊し、その人を抜け殻状態にしてしまうらしい。2時間ほどで髪が白くなり口が青くなるそうだが、ユークスに変化はない。
すでに5時間が経過している。先生が言うにはユークスの精神力が強いからだそうだ。でも持っても24時間が限度、その間に治さなくては。
それから1時間後、お母様が保健室に。
「ユークス、、、。今、治してあげるから。」
お母様は手から光の粒みたいなものを出し、それをユークスに送り込む。
しかし、ユークスにはなんの変化もない。
「う、嘘。これが効かないならもう。」
そういってお母様は倒れてしまった。
どうやら魔力を使い果たしてしまったらしい。
その後、兄二人が来て声を掛けたが、ユークスが目覚めることはなかった。
日が沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。
期限まで残り2時間を切った。王族の皆はあらゆる国から医者を集めているが、もう間に合わない。保健室には私とユークスだけ。
「お兄ちゃん、私今まで言えなかったけど。
お兄ちゃんのこと、大好きなんだ。いつも明るくて、優秀なんだけどどこか抜けてて、立場と
か関係なく誰にでも優しいとこが。
死んじゃだめだよ、お兄ちゃんのこと必要としている人が沢山いるから。ほんとは内緒なんだ
けど、マリーさんってある国の王女様だったんだよ。お兄ちゃんに妹を助けてもらったから王
女やめてメイドになったって。ほんとに、めちゃくちゃだよ。
・・・・・・
か、かえってきなよ。
おねがい、だから。
神様、もしほんとにいるのなら今この人を助けなさいよ!
今ここでユークスを見殺しにしたら、私はお前を絶対に許さない。」
「魔法生成を開始しますか?」
「え?何この声?」
「対象の毒を中和する魔法、、、フレクション。
対象に手をかざしてください。」
私は言われた通りに手をかざす。
すると、赤い光がユークスの身体から出てきた。
「ん?あれ、ローズ?」
「ゆ、ユークス?
い、生きてるの?」
「え?どういう質問?」
私はユークスに飛びついて、わんわん泣き始めた。
その温かい体温がユークスの無事を確信させた。