第1話 奇跡
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私には希望が存在しない。生まれた時から不幸だった。
1度目の人生では日本が高度経済成長期の時に生まれた。私の両親は所謂成金というやつで生まれた時は裕福だったが、バブルがはじけて一家転落。両親は離婚し母親に引き取られたが6歳の時に捨てられた。その後は児童養護施設に行き、バイトをしながら高校まで行き地元の企業に就職。そこはまさにブラック企業で毎日サービス残業が当たり前。上司からパワハラとセクハラを受けた私は自ら死を選んだ。
2度目の人生は異世界だった。魔法とかはなかったけど冒険者や魔物がいるような世界だ。私はその世界で大きな権力を持つ有名貴族の3女として生まれた。今度こそ幸せになれると思ったが、姉二人からの酷いいじめや周りからの冷徹な視線。私は貴族と言うにはあまりにも平凡だった。頭が良いわけでも容姿が良いわけでもない。そのせいで父親からも母親からも見放された。結局私は趣味の悪いバカ貴族の跡取り息子に嫁がされ、1年も経たないうちに側近が起こしたクーデターに巻き込まれて命を落とした。
そして、私は3度目の人生を始める。なぜ神様は私に転生させるのだろう。記憶を消してくれればいくらか楽なのに。いや、きっとそれでも私の人生は始まる前に結論が出ている。最悪の結末が待っていると。
目が覚めると私は暗い路地裏にいた。カゴの中に入れられていて、毛布が一枚で服は着ていない。どうやら捨てられたようだ。今まででスタートだけは良かったのに、今回はスタートから最悪なのか。
このまま誰にも会わずに死んでいくのかとそう思った。そんな時、バタバタと音が聞こえてきた。
「今日こそ、この路地裏を攻略してやるぜ。
待ってろよ、俺を待つ宝達!」
RPGごっこをやっているのか、ここがそういう世界なのかは分からないがそんな声が聞こえてくる。
「ん?赤ちゃん?」
その声の主は私に近づいてくると、カゴを持ち私を路地裏から連れ出してくれた。
「やっぱ赤ちゃんか!
でもなんでこんな所に、まさかこれが路地裏のお宝か。
ついに見つけたんだ俺。」
バカなのだろうか、この少年は。見たところ5歳くらいかな。金色の髪に赤い瞳。そして可愛い顔をしている。この子が私に何をするのか考えたくもない。今までの事を考えるとおもちゃにでもされてあげくこの子の両親に売り飛ばされるのかと覚悟した。
「名前なんて言うの?」
赤ちゃんだからか、上手く言葉が出てこない。でも私自身も名前を知らない。前世の名前はこの世でもっとも嫌いな言葉だから言いたくないし。
「ま、いっか。
君はローズだ。綺麗な赤い髪してるし。」
ローズ、不思議とその名前が気にいってしまった。
私はその少年に連れられてあるお屋敷に入る。
この子の家は裕福なのだろうか。
「たっだいまー。」
「王子様、また勝手にお出かけになられて。
あれほど外に出るときは私に声をかけてと言ったのに。」
「まぁまぁ。ほら、ちゃんと宝物も見つけてきたよ。」
「宝物って赤ちゃんじゃないですか!
早く戻して来て下さい。」
「えぇーーー、せっかく拾ってきたのに。
ローズが可哀想だよ。」
「名前まで付けたんですか。
しょうがないですね、今晩だけ泊めてあげましょう。」
「やったー、さすがマリー。」
メイド姿をしたこの女の人はマリーと言うらしい。しかし、王子様とは驚いた。私が元いた世界ではこんなタイプの貴族はいなかったから。マリーさんはまるで我が子を見るかのような温かい目でその少年を見ている。そっか、愛されているんだ。もし、この子が王様になったらもしかしたら幸せな国になるかもしれない。そんな淡い期待を抱いてしまう。
マリーさんにお風呂に入れてもらった後、私は王子様と同じ部屋で寝ることになった。
「僕の名前はユークス・ゴールドって言うんだ。
兄さんが二人も居て、どっちもすっごいカッコイイんだよー。」
急に自己紹介を初めて、笑顔で自分の家族の話を始めた。でもそうなるとこの子は第3王子。きっと王様にはなれないだろう。
「うーーん、やっぱダメかーーー。」
長話を終えたとおもったら急に落胆の表情を見せる。
「ローズはどうしたら笑ってくれるの?
やっぱり変顔とかかな、でも僕得意じゃないし。」
そっか、私この子と会ってまだ一度も笑顔になってないのか。でも、私を笑顔にさせるのは王様になるよりよっぽど難しい。だって、私の人生に希望なんてないのだから。
「よし、母様の必殺技を使おう!
ローズ、生まれてきてくれてありがとう。」
その言葉を聞いて私の目から涙がこぼれる。
「これはね、母様が僕によく言ってくれる言葉でこれを聞くと僕は必ず笑顔に、、、
って泣いてる!?」
ユークスは急いで私の涙を綺麗なハンカチで拭う。
「ローズはさ、これからどうしたい?
僕と一緒に暮らす?」
少年はまっすぐな瞳でそう問いかける。
私はこの少年に興味が出た。本当にこのまま大人になっていけるのか。人は変わる、私はそれを何度も見てきた。でも、この子は違うのかも知れない。
私は小さく頷く。
「やった!
これからよろしくね、ローズ。」
そして10年後。
「おはよーローズ。
今日の朝食はクロワッサンだって、楽しみだなぁ。」
「お兄ちゃん、いつもご飯のことばかり考えてるよね。」
「そんな事ない、剣と魔法の稽古の時はちゃんと集中してるし。ローズの事考えてる時あるし。」
「わ、私の?」
「そ、今日も元気でいてくれて嬉しいなーって。」
「はぁ、ほんといつまでも子供みたいよね。」
ユークスと暮らして10年、私はすっかりブラコンになっていた。