異世界モノがB級サメ映画並みの一発屋と化していることに頭を抱える女神の憂鬱
昨今の転生物語。人間や動物はもちろんのこと、果ては無機物に至るまで、ありとあらゆるものが異世界を巡る珍事態が多発している。それはまさに、B級サメ映画に見る現象だ。
B級サメ映画とは、サメさえ出ればなんでもありだ。陸を行けば雪も泳ぐし、空も飛べば死んでも動く。高度なCGをふんだんに使用するものから、被り物で済ませる体たらくまで。あとはお色気要素の水着姿は必須。
異世界転生も同じく、異世界であればなんでもありだ。あとは少しのお色気要素は必須な点も、サメ映画と根本的には変わりがない。
そんな事態に転生の神々は頭を悩ませる。人や動物を転生させるまではまだ良かったが、昨今は電化製品やら食べ物やら、訳の分からないものにまで転生する始末。無機物と話す神の気持ちを考えてみろと、そう訴えたものの神々の審判は――
続行せよ。
そう無慈悲な答えが返って来た。お色気も出してねと、その一言だけ付け加えて。
「ふ、ふざけやがって……あたしは子供を転生させたいんだ。それを次はスマホだって? 堪ったもんじゃないよ」
「私は悪役令嬢を転生させたいのにぃぃぃ、次の私はトマトだってぇ! ほぉんと、嫌になっちゃうわぁああ」
そう、口々に文句を垂れる転生の神々だが、そこで一人の女神が、キレた!!
「私の次は、列●王ですわ! 人だけど、ふざけんじゃないですわよ! このままでは死して召されたキャラクター全てが、異世界に蘇る羽目になりますわ! エ●スも、ラオ●も、ブ●ャラティも! まるでボヘミ●ンラプソディー、スタン●の方ね。感動が台無しですわ!」
そうだそうだと、でも会ってみたいなと、そんな声も聞こえた気がしたが、女神はそれに構うことはせず、とある作戦を決行することに。
「異世界転移をしてやります、私の方がね」
「それで転生者たちを始末するとでも? そんなことしたってキリがないよ」
「それは百も承知、元を断てばいい話です」
「元って言ってもぉ、それは私たち神々よぉ? どうしようもないじゃなぁい」
「神も物語のキャラクター、ならばその神々にとっての神は?」
「まさか……」
そこは東京都、板橋区のアパートの一室。創作の神がいたことで有名なアパート――にちょっと近いだけの何の所縁もない部屋の住人。そこにはとある小説家志望が住んでおり、今もこの時、創作に頭を悩ませていた。
「うんちに転生……駄目だ、先客がいる。ちん●に転生……駄目だ、こちらも先客がいる。あぁ、俺くらいの頭じゃ、他人が思いつかない転生なんて考えられないなぁ。とりあえず他の作家の作品でも見て、参考にするとでもしようかな」
「いいえ、もはやてめぇに、考える必要なんてねぇんですわよ」
「いやいや、独創的な発想っていうのは必要で――って、うわぁあああ!」
ノートパソコンに向かう男の背後、まるで呪いを投げ掛ける女神の言葉に、男はびくりと飛びのき床を転げる。
「うんこにちん●を神に転生させようとしやがって、セクハラでぶっ殺しますわよ」
「わわわ……これは幻覚? それとも僕は転生したのか?」
「転生脳め、何事も転生に結び付けるんじゃないですわ。これから筆もちん●も握れぬ断罪をしてやるから、覚悟なさい」
元を断つなら小説家。そう、女神は転生にまつわる小説家を根絶やすことに決めたのだ。一人で何十創り出される転生者も、小説家を仕留めればそれで断たれる。最強も無敵も関係ない、作者が死ねばチートも何も通用しない。
「所詮キャラクターは作者の創造、一人で歩くことはできません」
ゆらりと歩み寄るその女神、男は這いずり壁を背に。
「さあ、断罪の時です。神の怒りの一撃を、その身をもって味わうといいですわ!」
ぐわんと拳を振り上げる女神の顔は、それはそれは鬼気迫るもので、恐れた男は何かないかと、コードを引いてはパソコンを盾に。
「無駄なことを……それでは――天誅ぅうううううう!!!」
そして振り下ろされる女神の凶拳。風を切るその凄まじい拳圧は、薄いノートパソコンのディスプレイなど易々と貫いて――しまうことはなく、すんでのところでぴたりと動きを止める。
はて、何事かと。恐る恐る顔を覗かせるその男。見ればそこには一転し、満面の笑みを浮かべる女神の顔が。
「なぁんちゃって、ドッキリですわ!」
「は、はぁ……」
「読者サービスゥ、なんちて。ではこれにて、失礼致しますわぁ」
そうして嵐の如く、女神はその場から消え去った。残るは男とパソコンだけで、その画面にはこう、記されている。
”異世界モノがB級サメ映画並みの一発屋と化していることに頭を抱える女神の憂鬱”
拝啓
いつも読んでくださる皆さんへ、感謝申し上げます。
読者さん、あなた方は作者にとっての神様です。