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絶望的実力者の日常  作者: 棒王 円
過去的日常
14/21

真紅の姫・エルムZERO




鮮やかな色彩に驚いて見ると、真っ赤なワンピースを着た少女だった。

少女と言っても、後ろに騎士のような青年が立っているが。


「あなたは、何を探しているの?」

「何で聞いてくる?」

俺の横で綺麗な少女が、うふふと笑う。

「先の事態を見ていたの」

なるほど?

町の外の事だったのに、見ていたと。それはわざわざ見ていたのか、偶然か。

俺が何も言わずに見返すと、後ろの青年が少女に何か耳打ちする。


肯いた少女は俺の手をそっと握る。

「いらっしゃい。お話を伺いたいの」

猫の目の様な綺麗な瞳を細めて、手を引っ張られる。

この人どう見ても貴族だよなあ。何でギルドに居てタグぶら下げてるんだろう?


何だか気になったので言われる通りに、後を付いて行く。

歩いて行ったのは小さなカフェで。

奥まった席で、相向かいに座り。少女は紅茶をたしなまれている。

俺は普通に果実水を貰って、盛り合わせの菓子を齧っているが。


長い金髪が背中に揺れている。金の睫毛が桃色の瞳を縁取っていて。手入れされている肌と洗練されている仕草。どこをとっても高位の貴族のお嬢様。

それがどうしてギルドタグを持っているのか。タグの色は鋼。冒険者をして長いのだろう。


「…で、何の話だよ?」

ずっと黙っているのも嫌だったので、俺が聞くと楽しそうに笑う。

「あの方の部下を殺すなんて」

「別に誰の部下とか関係ないから。俺の家族を殺すとか言ったやつは手加減しないってだけだ」

溜め息混じりにそう言うと、驚いた顔をされた。

「まあ、あの方々はそんな事を言ったの」

それからすっと目を細める。

「それでは仕方ないわねえ」


共感してくれるのはいいけど、理由は何だろう。

「で、用事は?」

「あら、せっかちなのねえ」

にっこりと微笑まれても。進展しない話に焦れるのも嫌だし。

「少し、わたくしを手伝って頂けないかしら」

「それは?」

「ギルドを通さない、直接依頼という物よ」

へえ、そんなものがあるのか。

俺が少し首を傾げたのを笑われた。仕方ないだろう?ギルドの事についてはガイド以上の事は知らない訳だし。そちらさんほど長く活動をしている訳でもない。


「理由は?」

「ギルドで頼むには少し物騒なのよ」

物騒と来たか。

「殺人とか?」

「あら、直接的ね。でも違うわ」

俺の言葉に、また目を細める。


「とある館をしかるべき時間に燃やして欲しいの。一瞬で」


それは面倒な。

「出来るでしょう?」

「出来るか出来ないかなら出来るけど。やるかやらないかなら、やりたくないな」

「あら」

「だいたい」

俺の言葉に少女が眉を顰める。

「君も魔法使いだろう?」


その言葉に少女が溜め息を吐く。

「ええそうよ。でも私にはできないのよ」

「どうして?」

「実力不足なの。業火は打てないわ」

業火。魔法の名前か。後で魔法書を探してみよう。

悲しげだが、悔しいとかそういう訳でもない。ただ出来ないというだけの。


「自分で出来たら自分でするのか?」

聞いたらニコッと笑われた。

「ええ、もちろん」


そうか。

魔法力の譲渡とかできるかな。

俺は自分の中を探ってみる。暫く探してみたが〝ル”の返事がない。つまりは使徒以外には力は使えない。そういう事らしい。


「俺のメリットは?」

「貴族から手を出されにくくなるわ」

「君の関係者が死ぬから?」

鮮やかに笑う。それは本当に本懐のように。


「ええ。第七皇子なんて鼻にもかからないぐらい」

「……君の名前は?」

少女は紅茶を飲む。何かを決めるように。

「話を受けて下さるのかしら?」


俺が溜め息を吐くのを見守っている。

「ああ、受けよう」

「それでは、こちらの契約書に名前を下さる?」

そんなものまで用意してあるのか。

俺は初めて見る書類に目を通してみる。複雑な事は何もなく、単純に失敗しても責任は無いとか、報酬の話とかが書いてある。

紙から魔法の気配も感じない。


二度読んでから名前を書いた。その横に少女もサインをする。

「では、よろしくお願いするわ、エルム」

「ああ、パメラ」

あえて書いてあった家名は言わなかった。俺に頼んだのは冒険者のパメラ。それで良いだろう。


「カスパール」

パメラが後ろの青年を呼ぶ。

「はい」

「事態が終わるまでは、エルムの事も気に掛けなさい」

「はっ」

いや、大丈夫だけどね。


お菓子の皿をどかして、町の地図が開かれる。

「この屋敷よ」

赤い印が付いているのは、貴族街の中らしき大きな建物。書かれている家名は確かにパメラと同じ名前だ。

つまり実家を燃やすと言っている。


「細かい理由を聞いても?」

冷めた紅茶を含んでから、パメラが溜め息を吐く。

「ここでする話ではないわ」

確かに、安全ではないが。

この町に安全な場所なんてあるだろうか。


パメラもどこかを考えているのだろうが、思いつかないのか目を細めたまま口を開かない。ああ、仕方ないか。


「俺の家で話そう」

その発言でカスパールが睨んでくる。まあ、男の一人暮らしなら警戒してもいいけど。

「あなたの家?」

「そう。町の外れの方にある。母と姉がいるけど、それで良ければ」

「あら」

そう言って目を開かれた。カスパールも動きを止めた。


「俺が守っている大事な家族だ。完全に守りを固めている。戦争が起きても大丈夫なぐらい。だから大丈夫だと思う」

「…窺ってもいいのかしら?」

「いいよ。依頼人だし、女性だから二人も大丈夫だと思う」

そう言ってからカスパールを見る。


「彼はどうすればいいかしら」

「うーん。パメラにぴったりくっついていればいいと思う。母と姉は理由があって、男性が傍に居ると具合が悪くなる。近寄らなければ…多分…」

俺が言葉を濁すと、パメラがとんでもない事を言った。


「カスパール。あなた女装をしなさい」

目を真ん丸に開いたカスパールから返事が出ない。いやそれは幾らなんでも酷くないか?カスパールは見たまんま騎士だろうし、女性的からは程遠い非常に男性的な見た目だし。


「…はい、分かりましたお嬢様」

まじか。

「似合うか似合わないかは良いのよ。誠意を見せることが大事だわ」

「はい」

凄いな貴族の矜持。


その後街に出て、メイド服を買う。こんな大きな人用のメイド服なんてあるのかと思ったが、案外すぐに見つかった。女性で体格の良い人もいるようだ。

それ以外に高い紅茶とか高い食器とかを買う。さすがに寝具とかは無理だから我慢してもらうけど。


俺の家までついて来てもらった。門の前でパメラが溜め息を吐いた。

「これほどの魔法がここで必要なのかしら」

「まだ足りないよ」

パメラが俺の顔を見て呆れたように笑った。


「ただいま。今日はお客さんが居るんだけど」

「お帰りエルム。お客さんて」

母の声が止まる。

「パメラ。ちょっと泊まってもらってもいいかな」

「あら、そちらの方、も」

また言葉が止まる。御免カスパール。


「わたくしのお付きなのだけど、こちらに来るにはこれが良いと、わたくしが命じたのですわ。お嫌でしょうけどお許しいただけますか?」

だから俺を見られても、何も出来ません。


階段から降りてきた姉のキャスタが、カスパールを見て。少し笑ってから頭を下げた。

「有難うございます。それからゴメンなさい。そうして貰っていると安心します」

そう言った姉にカスパールは何とも言えない顔で、頭を下げた。


買ってきた紅茶や食材を母に渡す。

「あら。…なるほどね」

「そう、まあ全部って訳じゃないけど、紅茶ぐらいは」

「分かったわ、ご飯まで待っていていただいて?」

「うん」

パメラを振り返って、手招きで二階の空き室に案内する。


「ここしかないけど」

「十分だわ、有難う」

「いや、ただ防御ならここ以外考えられないから、まあ、平気だと思う」

周りを見回して、パメラが溜め息を吐く。

「何を話しても平気そうね」

「たぶん」


母が紅茶を持ってきてくれたから受け取る。

俺からカスパールが受け取り、パメラに紅茶を入れる。

部屋の小さなテーブルと椅子で、お茶会が始まる。


「で、詳しい話をいいかな?」

「ええ。もう推測していると思うけれど、私の家を一瞬で焼いてほしいの」

「業火だっけ」

「ええ、使えるかしら?」

「…待ってて」

「ええ」

自分の部屋に入って、魔法を探してみる。載っていそうな魔法書を持ったままパメラのいる部屋に戻る。

相向かいの椅子に座って、業火という魔法を探す。


「これか。火の魔法の最上級の一つか」

パッと呪文と魔方陣が目の前に現われて消える。

成る程そこそこ魔法力が必要な、範囲魔法か。パタンと本を閉じてパメラを見る。


「あったから、使えるよ」

「え?どういう意味かしら?」

「魔法書に有ったから読んだ。だから使えるよ」

パメラが口を噤んだ。何か恐ろしいものを見るように俺を見ている。


「あなたのそれは、魔法使いのそれとは全然違うと思うわ」

「だろうね。俺のやり方は他の人は無理だと思う」

パメラは紅茶を一息で飲み干してから、小さい声で呟いた。


「加護か、それ以上の」

俺が人差し指を立てて自分の口に当てる。

パメラは何故か眩しそうに目を細めた。


「そうなのね。羨ましい以外の言葉を言えないわ」

溜め息を吐いたパメラが、自分の顔を触る。

「わたくしにも、それがあれば」

そう言ってから首を振った。

「いえ、今はあなたの手を借りられることを、最上としましょう」


その後、素朴な母の食事に感動しながら食べて、小さなお風呂に入ってカスパールと部屋に戻った。


「エルム。あのお嬢さんは大丈夫かしら?」

「うん、多分。俺の依頼主になるのかな?暫くいるだけだよ。仕事が終わったら来ないから」

「そうなのね。あんな可愛らしいお嬢さんが冒険者をするなんて」

母が俺を見る。

「どれだけの気持ちなのかしら」

俺は肯くだけにした。

誰かの心にまで、責任は持てない。俺は俺の守る者だけで精いっぱいだ。



実行日の為に移動をする。

パメラの実家は王都に有った。


クラータ王国の王都クラータ。そこの貴族街を燃やす。

罪人なんてもんじゃない。重罪人だな。

移動中にパメラの気持ちや経緯も聞いた。


婚約者や義理の親や。

そういう貴族的な関係とパメラ自身の魔法の限界量やそんな事など。

全部ひっくるめて、家を追い出されて、矜持を潰され。

自分の心を保つために冒険者になったと言った。


それ以外に現在の貴族の事や王族の関係性とか、俺が生きていくのにはあんまり必要なさそうな情報まで。

パメラが話したいように、とめどなく話すのを止めなかった。


きっと。話したいのだ。

女性として搾取されるだけの人生を振り切りたいと、冒険者を選んだ自分の決意と心を。

赤の他人の俺になら話しやすいのかも知れない。


移動中に疲れて眠るまで。何回も何回も。

カスパールはただ黙ってパメラの後ろにいる。


王都に着くころには、パメラは何かを振り切れた顔をしていて。

俺も心置きなく魔法を振るえるだろう。




王都に入って、パメラの実家を鐘楼から見降ろしている。

沢山の建物の中でもそれは大きな物だった。権力のある、財力のある、そんな貴族の館に見えた。


静かに夕暮れが降りてくる。

完全に日が落ちたら燃やして欲しいと言われていた。

その場で三人とも何も言わずに時間が過ぎていくのを待つ。


地平線に日が沈み切る。

街の中にぽつぽつと燈が灯りだす。

柔らかな夜。


「いいのか?」

俺が確認をする。

この先は地獄になる。見える範囲をすべて焼き尽くす。


パメラは何も言わない。


「パメラ?」

俺が再度問いかけると、パメラは座り込んで泣きだした。


「う、恨んでいるのです。わたくしは本当に。わたくしを排除して何も思わないすべての人を。心の底から恨んでいるのです。滅ぼしても良いほどに!」

「分かっている」

「だけど。ここを、全て焼くのは」

そう言って泣き崩れた。

俺はその側で黙って立っている。夜は更けて何の明かりも無い鐘楼はただ真っ暗な闇の中、俺達は誰も動かない。


ただパメラの泣き声だけが響いている。


「エルム。わたくしは勇気が無いでしょうか?」

見上げて問われる。

俺は溜め息を吐いてパメラの傍に屈み込む。


「行うのも止めるのも、どちらも勇気は必要だ」

「わたくしは」

「お前の前には、業火を使える魔法使いが居る。それを使うのも止めるのもお前の気持ち次第だ。言えばここは地獄のようになるし、言わなければお前が地獄から抜け出せない」

「わたくしは」


静かに呼吸を繰り返し。パメラは立ち上がった。

「ここを焼いてしまえば、他の罪なき者が被害に遭うのですね」

「そうだな」

「あなたも」

「そうだろうな」

「それなら止めましょう。私は何か別の方法で復讐をしますわ」

鐘楼を降りながら、パメラに言ってみる。


「白金等級を目指すといいんじゃないかな」

「え?」

「王族よりも強いらしいよ」

パメラは何かを悩みながら地上に降りた。鐘楼の下で王都を眺める。


「ショロンに戻るなら一瞬で帰れるけど」

「転移も出来るのですね」

溜め息を吐かれた。

差し出された手を掴んで、ショロンに転移をした。


冒険者ギルドの前で別れる。

「また、お会いしましょう」

「そうだな、また」

微笑むパメラと頭を下げるカスパール。俺は二人に手を振って家に向かう。


パメラの計画が実行されなかったのは良かったけど、俺には問題が残っている。

あの第七皇子をどうしようか。




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