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絶望的実力者の日常  作者: 棒王 円
過去的日常
12/21

ギルドへの正式加入・エルムZERO




受付カウンターに座って、フレイと話している。

「討伐証明は出来ました」

「うん」

フレイが指先で眼鏡を直す。

「しかしエルムさんは依頼を受けていません。したがって依頼完遂料金を受け取ることは出来ません」

「うん、いいよ。セイルに還してあげて」

「…依頼人にお会いしたのですか?」

「偶然だけど、会った。自分で稼いで依頼したらしいから、返してあげて」

フレイが肯いた。


「分かりました。そのように」

「うん。討伐部位の買取だけでいいよ」

「その事なのですが」

ん?まさかできないとか言わないよな?


「今回の討伐実績で、エルムさんに正式にギルドに加入していただけるようになりましたが、どうされますか?」

「まだ一週間ぐらいだと思うけど」

「はい。その間に大量の討伐部分を納品されていますし、今回はケルベロスの討伐ですので、何の問題もありません」

なるほど。

どうしようかな。


悩んで返事を即答しない俺を、不思議そうな顔でフレイが見ている。

「お嫌ですか?」

「いやって訳じゃないけど」

ほんの十日足らず前まで、俺は農民だった。

冒険者になる事なんてただの一回も考えた事はなかった。

それがこの先の生き方を決断しなければならないのが。


「…シャワー借りてもいい?」

「あ、はい。二階が新人たちの宿舎になっています。そこに共同の風呂がありますので、そこでどうぞ。銅貨を入れればお湯が出ます」

「ありがとう、借りるよ」


カウンター脇の階段を上がっていくと、結構な数の扉が並んでいた。手前の扉に風呂場と書いてあったから、そこに入って銅貨を入れて身体を洗う。

どうすればいいのか分からない。

冒険者になるのが妥当な気はする。けれど、今の俺に稼げるのが冒険者なだけで、年齢が上がればもっと別の仕事にもつけそうな気もする。


自分の左胸の上に有る”ル”の使徒の証。

けれど、女神から冒険者になれとは言われていないし、ましてや”ル”ならどの職業でもいちゃつきさえ見せれば不満など言わない気もする。


適当な温風で髪を乾かして服は〈消去〉で綺麗にして、下に降りる。

フレイが受付カウンターから外に出て、立って待っていた。


「どうしたの?」

「何処かでお昼を食べませんか?」

微笑んでいるフレイは迷っている俺に気付いているのだろう。

断るのも面倒で、フレイに着いて外に出た。


まだ来て半月も立たない町の風景は故郷と呼ぶには程遠い。


フレイが少し洒落た店に入り小さな個室に案内される。

薄く防御魔法が掛けられているその場所は密談用ではないかと、思えた。


「エルムさん、何か嫌いなものは有りますか?」

「ないよ。何でも食べる」

「分かりましたそれでは、こちらで頼みますね」

それに肯いてから、注文をしているフレイを見るともなしに見る。


暫くは何も言わずに食べていたが、食事がデザートになってからフレイが聞いて来た。

「冒険者はお嫌ですか?」

フレイを見るが、他意は無さそうだった。ただ俺の気持ちを聞きたいだけだと、そう見えた。

「嫌いって訳じゃない。なんていうか」


俺はチーズケーキをつつきながら言葉を探す。


「それしかないという気がしない」

「冒険者以外の仕事も出来ると」

「未来的に、無い訳じゃないと思う」

フレイはひと口果実酒を飲んでから、頷いた。


「確かに、エルムさんはまだ十歳ですから、その可能性の方が多いと思います。将来は何か目指すのですか?」

「あ、いや。何か考えている訳じゃなくて」

そこまで言ってから、これはもう、きちんと話すまで解放してくれない気がした。



ハアッと息を吐いてからフレイを見る。

「他言無用で」

「はい。我が神に懸けて」

そう言われて、初めから話す事にする。


「先週までは農民だった」

フレイが少し目を開く。

「そこがホブゴブリンとオークに襲われて壊滅した。俺は母と姉を助けて村を出た」

「どうやって助けたのですか?農民ではなにも」

「……神の使徒になった」

今度は完全に目を見開いた。


「それの使徒になったから力が使えて、今ここに居る」

「それは、また」

「だから、魔法が使えるようになったのも一週間前から。それまでは何も考えてなかった。農民になって死ぬまで村にいるつもりだった。それ以外の未来なんて考えた事もない」


俺が果実水を飲むと、フレイが小さな息を吐いた。

「だから冒険者にも別に憧れとかなくて。他の仕事も特に思い入れが無い」

「そうですか」

フレイも果実酒を飲んでから何か言葉を探しているようだ。

「冒険者はお嫌ですか?」


けれどフレイが言った言葉は最初に言った言葉だった。


俺はその意味を考える。

別に嫌じゃない。他の仕事と一緒で、特別な思い入れが無いだけだ。

つまり。

「嫌じゃないよ」

「それならば、是非なって欲しいのです」

フレイが微笑む。そこに他意があるのかは分からない。


「神の使徒という物は、教会に捕まればこき使われるだけです」

「なるほど」

「それに抵抗できるのは、貴族のように地位と名誉がある者か。あるいは」

しっかりと俺を見ている。

「冒険者として、白金等級になる事です」

「それは」

「ギルドが認めている階級の話ですが、白金等級が最上なのです。そこまで行けば王族さえいう事を聞かせるのは困難になるでしょう」

「そんなにすごいのか?」


フレイが肯く。

「はい。現在白金等級はこの国で十数人。他国では数人です。ほとんどが王族か侯爵になっていて、教会がどうにかできる人たちではありません。白金等級なのですから実力行使も出来ませんしね」

なるほど。

俺が肯くと、フレイがまた微笑む。

「エルムさんなら成れると思います。そうしてから他のなりたい事を考えてみればよろしいのでは?」

「いや、それ無理じゃないか?」

ギルドの最上級になって、そこから辞めるなんて。

微笑んでいるフレイはしかし、それ以上は何も言わなかった。


「どうされます?」

「…逃げ場がない気がするけどなあ」

そう言って溜め息を吐いた俺に、フレイがそれは綺麗に笑った。


ギルドに戻ってから、新たなギルドタグを作ってもらった。白銀等級。一番最初の色。

それをしみじみ眺めていると、フレイが言ってくる。

「すぐに色は変わると思いますが、暫くはそれでお願いします」

「うん。何も文句はないよ」

「そうですか」


首に引っ掛けて立ち去ろうと思った俺にもう一度フレイが声を掛ける。

「エルムさん。こちらを」

渡されたのは小さな巾着。

「ケルベロスの報酬です。もしも何かわからなかったら、この間の本にも書いてありますので読んでみて下さい」

「うん、ありがとう」


手を振ってギルドを出る。

それにしても白金等級ねえ。その前に教会が出て来たらどうするか。

まあ、締める以外の選択肢が無いのだけれど。


ケルベロスの数万匹の力。

それが今の俺の中にある。

何でも出来る気がするとしても、きっと何も成さない。


俺は家に帰り母と姉の顔を見る。

それから言った。


「俺、正式に冒険者になったよ」

二人の複雑そうな笑顔に、俺も誰も何も言わなかった。




次の日が来ても、特に何かが変わる訳ではなく。

母の頼みで午前中に買い物に出かけて、必要品をたくさん買って。

魔導書に在った強い防御魔法を家のある土地に、三重に掛けて。

そうして準備をしてから、午後になってからギルドに向かった。


正直、ケルベロス討伐の金が、驚くほどあったので仕事はしなくても良い気がするが、階級を上げる方法も知らない俺では、行かざるを得ない。

つまりは知識の為だ。

その予定だったのだが。


ギルドの中に入ると、グレイブが俺を見つけて近寄って来た。

「エルム」

「何故呼び捨て」

これ言うの二回目じゃねえか?

「正式にギルドに入ったんだね」

俺のギルドタグを見ながら笑っている。

「昨日ね」

「是非俺のパーティに入って欲しい」

「パーティは断る。助けるならいいけど」

「え」

グレイブの笑顔が固まった。俺は元々ソロで行くつもりだからパーティの勧誘は受け付けない。

「最初は誰かと一緒が良いと思うけど」

「実績積んでからギルドに入った。パーティは組まない」

「そうか」

凄くがっかりしているけれど、そこは譲れない。

白金等級を目指してますなんて誰にも言えないからな。


「そこの二人は、講義を受けますか?」

受付カウンターから声が掛かる。フレイが声を掛けてきた。

グレイブを見ると俺を見てから小さく肯いた。

「お金を払って受ける講義だよ。ギルドに関する知識を教えて貰える。やっとお金が出来たから俺は今日受けるのだけど」

俺はフレイを見る。


「いくら?」

「銀貨15枚です」

「やっす」

「それはあなたが持っているからです」

なるほど。

受付カウンターに近寄って銀貨を払う。

「ではこちらへどうぞ。他の方もいますので」

一階階段の奥に小さな部屋があって、そこに20個ぐらいの椅子が並んでいた。何人かが座っていて、俺はグレイブの横に座る。


グレイブが小さな声で聞いてくる。

「エルムってお金持ちなのかい?」

「いいや。討伐で稼いでる」

え、という顔になった。

「前に言ってた買取って」

「そうだ」

なるほどって分かり易い顔をされた。

「それで実績なんだね」

「まあ、そんな感じ」

それ以上話さずに周りを見るが、俺達の他も大体が少年少女で、みんな白銀等級のタグを首から下げていた。

憧れてなる職業なのか、俺と一緒でこれしか出来ないからここで働くのか。

しかし一獲千金を目指しているような気配の方が強かった。


そんなに儲かる物なのか。冒険者って。

疑問には思う。

俺は〝ル”の使徒だから大抵のことは出来るけど、そうじゃなければ。

自分の農村時代を思い返してみる。十二歳って半人前ぐらいだよなあ。

体力も知識も。


部屋の前から茶髪の青年がこちらを向いて俺達を見た。

「じゃあ、これから講義をするけど。長い話になるから寝ないで聞いてくれ」

数人が頷いていた。

「俺は此処のギルドに所属している紅玉等級のカーフだ。よろしくな」

ざわりと数人が小さい声で話す。

聞いていると紅玉等級から中堅らしい。講義してくれるのは珍しいとか。

へえ、なんでだろうな?


「じゃあまずは、ギルドの階級から話していこうか。知ってると思うからざっとな。下から白銀等級、銅等級、鉄等級、鋼等級、紅玉等級、翡翠等級、金剛等級、金等級、白金等級。これが全部だ。ここには金等級は2パーティしかいない。金剛等級で十数だな。皆が頑張る余地はあると思う。頑張って上に行ってくれ」

そう言ってからカーフは後ろの緑色の板に白い文字で書きだした。

「この町の場所だ。クラータ王国の此処が王都で、此処がショロンだ」

地図の左寄りの真ん中にショロン。その少し上に王都と書かれた。案外近くにあるな王都。


「ギルドは、各国共通で連絡を取って情報を交換している。だからここのギルドを追い出されたからって、他に行けばいいやとかは無理だからな」

ちょっと脅しが入った。数人がびくついているが俺は普通に聞き流している。この国を出るとか、そんな事はもっと先のはずだ。多分。


「では、どうすれば階級が上がるかって話だが」

そう言ってカーフが俺をチラッと見た。いや気のせいか?

「依頼をこなして、実績を上げるのはもちろんだが、ギルドとの信頼も必要だ。横暴な振る舞いばかりだとギルドが階級昇格を認めないって訳だ。いくら実績があってもな」


人間関係が大事って話ですね。分かります。

農村はそれが全てみたいなところでした。村八分なんて飢えて死ぬのを待つばかりだからなあ。

「…こなさなければいけない実績は各等級である程度決まっているが、物凄い魔獣を討伐したとかってなると、早めに上がる時もある」

おや?確実に俺を見てるな?


「それは白銀等級では、どういった魔獣でしょうか?」

前に座っている少女が質問した。

「そうだな。白銀等級はゴブリンやオークが多いと思うが、例えばキメラとかバグベアとかを討伐できたら早いかも知れない。けれど、実績を積むよりも先に死ぬかもしれない」

ああ、バグベアでね?なるほど。


「だから出来れば最初はマッドラットやユニコラビットで腕を磨いてからゴブリンとかを目指すのが良い。良いって言うかそれが普通だ」

あ、またこっち見たな。


「白銀等級では薬草などの採取も依頼がある。皆がお世話になるポーションを作るために必要なものだから、嫌がらずに受けてくれると嬉しい」

数人が頷いていた。

採取はやった事がないなあ。金になるのかな。


「それじゃあ、近くの地域に出る魔獣の話をするか」


その後は結構長い時間かけて、魔獣の話をされた。

マッドラット、ユニコラビット。スライム、ポイズントード。陸地と水棲に、空を飛ぶハルピーとかの話も聞いた。

それぞれ住んでいる場所や出現場所、特性なども話している。


興味はあるが少し退屈だった。

隣のグレイブは真面目にメモまで取っている。他の白銀等級も手帳に書きこんだりしている。多分何もしないで聞いているのは俺ぐらいだと思う。


魔獣に会った時に、知りたいと思うだけで弱点やその他の情報が目の前をダーッと流れる俺としては、メモを取る必要が無いのだが。

まあ不真面目に見えるよな。

睨まないでくれるかな、カーフさん。


「それじゃあ、座学はこれぐらいで、少し実戦的に動いてみようか」

急にそんな話をするカーフに、何人かが首を傾げている。

「地下の練習場も案内するよ」

にこやかに笑って皆を部屋から地下練習場へ連れて行く。さらに階段を下り地下に行くと、確かに防御魔法が掛けられた地面のある場所があった。


「此処は魔法や武器の訓練をする為に解放されているから、申請すればいつでも無料で使える。ギルドに入った特権と思って使ってほしい」

きょろきょろと嬉しそうに見ている新人たちがいる中で、俺は嫌な予感しかしない。


「じゃあちょっと、模擬戦でもしようか」

数人が、えって声を出した。いきなり戦えと言われてできる訳がない。きっと誰もがこれから武器を使ったりするのだろうし。

「じゃあエルムくん、やってみようか」


絶対言うと思ったぜ。




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