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絶望的実力者の日常  作者: 棒王 円
現実的日常
1/21

失礼な受付嬢

会話の内容で悪い言葉が出て来ます。

罵詈雑言が苦手な方は、読まれない方が良いと思います。


フィクションとして楽しんでいただけるなら、お読みください。




依頼を終わらせて町に帰ってきた俺は、拠点にしている大きな冒険者ギルドの扉を開けて中に入る。中はまだ昼前のせいか人が少なく、依頼書の前にもほとんど誰もいなかった。


依頼終了の手続きを済まそうとカウンターを見ると、俺を凄い形相で睨んでいる受付嬢が視界に入った。


フレイはいないのか。

仕方なく睨んできている受付嬢の前に立つと、この新人受付嬢が先月入ってからの悪口が降り注ぐ。

「お前みたいな白銀等級が何の用だよ。ここはギルドで慈善事業じゃないんだぞ」

いや別にお前にやって欲しい訳じゃないんだが。

今日は生憎と他の人員もいない。

この時間だから、早めの食事にでも行っているのだろう。


「依頼終了の手続きをしてもらいたいのだが」

一応相手も仕事のはずだと俺が依頼書を出すと、受付嬢がその依頼書を握りつぶした。

それから俺を指さして酷い顔でがなり立てる。

「お前な。白銀等級がロックリザード退治の依頼なんて受けられる訳ないだろう。大方ねつ造でもしたんだろう、このクソが」

俺は小さく息を吐く。

この新人受付嬢は俺の顔を見るといつもこんな調子だ。

中堅以上の冒険者にはある程度の対応をしているが、新人の冒険者、本物の白銀等級にも相当に雑な対応をする。まあ、今聞いているようなセリフは俺にしか言わない様なのだが。


この様子では手続きはしてくれなさそうだ。

「…それを返してくれないか。他の受付に渡すから」

「はあ?!ふざけるなバカ。インチキして金貰うなんてどんな根性してるんだよ。これは私が捨てておいてやるから、さっさと安い宿屋に帰りな!」

俺は手を伸ばして受付嬢の手首を掴むと力を込めた。

「い痛たたた!」

痛みに手を離した受付嬢から依頼書を取ると、俺はフレイが来るまで待つつもりでギルド併設の食堂の席に腰を下ろした。


カウンターや依頼書ボードがある所の反対側、扉から入って右手の奥側にある食堂は、ぼちぼちの人が入っている。

「てめえ!受付に暴力を奮うとか何様のつもりだ!?白銀等級なんざすぐに首に出来るんだからな!?聞いてるのかクソヤロウ!!」


聞いていません。

俺が席に着くと同時に、猫耳でメイド服のウエイトレスが近づいてきた。

「エルムさん、いらっしゃい。今日は何にします?」

「リンリン、元気そうだな」

「はい。おかげさまで。それでお酒はどうします?」

「うん、もらおうかな。つまみは…適当によろしく」

「はーい」

俺がリンリンと話している間も、カウンターの中から受付嬢はがなり立てている。

「あんたが昼間から酒なんて贅沢しても仕方ないだろう!?もっと等級を上にしてからここで飲食する事だな!」

声に驚いて受付を見ていたリンリンが俺の方を見る。

「……あのひと、どうしちゃったんですか?」

「さあ?」

肩を竦めるとリンリンも困ったように微笑む。

俺が聞きたいくらいだ。


俺が何も反応しないのが気に入らなかったのか、物凄い勢いで受付カウンターの外に出て来た受付嬢が俺の横に立って、テーブルを叩こうとした時にギルドの扉が開いた。

振り上げた手を引っ込めて、受付嬢が入って来たメンバーを見る。

「グレイブさん!『明けの空』の方々も!こんにちは!!」

挨拶をされたグレイブは、俺と受付嬢を交互に見た後でにっこりと笑った。

「お?エルムがいるのか珍しいな。ノイジーちゃんもこんにちは」

自分が挨拶を後回しにされた事に気付いた受付嬢…ノイジーは俺をギッと睨みつけた。

いや別に、俺のせいじゃないし。


「なんだよ、エルム。今から食事か?俺も同席していいか?」

俺が何か言う前に隣に座っている時点で、答えなんていらないだろう。グレイブのチームメイトの二人、魔法使いのフェイムと剣士のタキタも前に座り、テーブルは満席になってしまった。

「こんにちは。ご注文はどうしますか?お三方」

リンリンが来ると、フェイムとタキタが嬉しそうにニコニコとしだした。

前に聞いたが、二人は猫獣人のリンリンを撫で繰り回したいという野望を持っているそうだ。勿論おさわり禁止のウエイトレスに触る勇気がなくて、二人とも野望未遂のままだが。

「俺は日替わりで。二人もそれでいいよな?」

グレイブが勝手に決めていたが二人とも頷いたので、それはそれで良いのか。リンリンは嬉しそうに厨房へと消えてゆく。それからグレイブが俺にぐったりとくっついて来た。

「…重い」

「聞いてくれよエルム。今日の依頼がさ、無理だったんだよ。ほんとさ自分の力のなさを思い知るよ」

頭の横でグレイブの愚痴を聞かされる俺に、前の二人が苦笑を浮かべる。


「離れろ!白銀等級がグレイブさんに近付くな!!」

まだテーブルの横に立っていたノイジーが急に怒鳴ったので、グレイブは俺から離れてノイジーを見上げ、前の二人も目を丸くしてノイジーを見る。

「お前みたいな者が金等級と同等に話して良い訳がない!」

俺の前の二人、フェイムとタキタが俺を見る。

「この方どうしましたの?」

「こいつ何言ってるんだ?」

だから俺に聞かないでほしい。


「ノイジーちゃん?機嫌悪いね、どうしたの?」

笑いながらグレイブが尋ねると、ノイジーは怒り心頭の酷い顔から照れたような赤らんだ顔になった。

「そいつが『明けの空』の皆さんに、おもねっているのがいやなんです」

「俺がエルムにくっついているんだけど?」

「そいつに何か脅されているのですか?」

どんな発想だ、それは。

金等級を脅せる勇者を教えて欲しいわ。


「そいつは白銀等級のくせに朝のチケット争奪戦にも参加せず、塩づけ依頼をこれ見よがしに選び、何処かで金策をして買ってくるか盗んでくるかした魔物の部位を持ってきて、依頼をこなそうとしているんです。そんなことをしても誰も依頼を完了したと思わないから、一月たっても白銀等級から上がれないのです」

三人が俺を見ているが、構わず酒のグラスに口を付ける。

こんな状態なのに、気にせず運んでくるリンリンはウエイトレスの鏡だな。

「だから私がこいつに言ってやっているのです」


「ノイジーちゃんは白銀等級が嫌いなの?」

フェイムが聞くと、ノイジーは鼻息も荒く肯いた。

「当たり前です!白銀等級なんて害悪でしかないじゃないですか!ギルドに貢献もせずに安価な宿で生活して大した依頼じゃないのにギルドから金を持っていくなんて。それでもすぐに等級が上がる人ならいいのですが、何か月も白銀等級のままなんて怠惰なゴミ以外の何物でもありません」

言いきった顔をしているノイジー。

この人選をしたギルドを怒るか脅すかしないと駄目かもしれない。


「言い過ぎだろ、ノイジーちゃん」

グレイブが言うと、ムッとした顔のままノイジーは黙った。

イケメンが言うと効果があるのか。


この大騒ぎを聞きつけたギルドの二階に住む新人冒険者たちが、階段の下あたりで野次馬をしていたが、ノイジーの言葉に憤慨したのだろう顔でこちらを見ている。

そのうえ昼時も半ばを過ぎたからか、この食堂にも他のギルドメンバーがちらほら座っていて、そいつらも驚いたままこちらを見ていた。

「でも、一番嫌なのはそいつです。白銀等級のくせに態度が生意気すぎるし、出来ない依頼を出来ている風な顔をして受付に持って来るのがいやなんです。普通あんなに成果を持って来たら銅級に上がるじゃないですか。上がらない理由が皆にばれているのに面の皮が厚いのか毎日依頼をこなしたふりをして生き恥をさらしているのに気付かない愚かなゲスが嫌なんです。生きてて欲しくない」

俺を指さしたまま言い切るノイジーを、俺はポカンと見てしまった。

これは、どうするか。


俺が指先を動かそうか悩んだ時。

「何か騒がしいようですが、どうかしましたか?」

ギルドの受付カウンターの中から声が掛かった。

青い髪の眼鏡美人、受付もやっている副ギルド長のフレイがやっと来たようだ。

「…みなさん、どうしましたか?」

受付カウンターから出て来て俺達に近付きながら、周りの異様な雰囲気に眉を顰めつつ、フレイが再度聞いて来た。

俺が答えるべきなのだろうが。

「いえ、何でもありませんフレイさん」

ノイジーが先に答える。が。

「何でもない訳ありませんよね?ノイジー?どうしてあなたはカウンターの外にいるのですか?」

フレイがその言葉をまともに受け取る訳がない。

「こいつに言い聞かせていただけです。身の程を知れと」

俺を指さしながら言うノイジーに。

「は?」

 と、いら立ちを隠せない顔で短くフレイが返事をした。

「エルムさんに、身の程を知れと?あなたが?」


ノイジーは自慢げに手で自分の胸を叩いた。

「はいそうです。ギルドの皆が言いたくても言えないようなので私が言ってやっているんです。それでも懲りずにまた依頼をこなしたふりをしているんです。今日なんかは絶対に出来ないロックリザードの依頼までねつ造して」

「その依頼ならギルドマスターの方から特別依頼で出しています」

「え?」

ノイジーが戸惑うような顔を見せた。

フレイは高い身長でノイジーを見降ろしたまま、眼鏡を直す。


「それは誰に依頼したんですか?」

「エルムさんに決まっています。他の方ではできません」

「え?嘘ですよね?!こんなクソ白銀等級に特別依頼だなんて出来ません!」

「白銀等級?エルムさんが?」

フレイが俺を見る。俺にも分からんと首を振るとフレイが眉を顰めたままノイジーを見た。


「エルムさんは白銀等級ではありません」

「え!?嘘です。初日にチラッと見ましたけど、白っぽい色をしていました。白銀等級の色です。おまけにどれだけ依頼をこなしても昇級しないじゃないですか!」

「ノイジー。冒険者ギルドの階級を言いなさい」

物凄く冷たい声でフレイが言う。そんな初心者説明で言われることの確認を今更言われた事で、酷く狼狽した顔のノイジーが言われた通り答える。


「白銀、銅、鉄、鋼、紅玉、翡翠、金剛、金、白金…です」

「そうね。その中で白く見える色はどれかしら」

「白銀です」

「もう一つあるでしょう?ノイジー?」

フレイがそう言うと、ノイジーは少し悩むように空中を見上げた。

こんな殺伐とした話の最中に、頼まれた品を俺達のいるテーブルに出しに来るリンリンは本当に凄いな。感心する。

眼の前に並んだメニューに、グレイブたちもほっとした顔をして手を付け始める。

味なんて分かるのか、この状況で。

まあ、暖かい料理で少しはこの空気の重さが軽減されるのかも知れない。


「白金…ですか?」

「そうよ」

「え?これが白金なのですか?」

俺を指さしながらノイジーがフレイに聞く。キリリと眉をあげたフレイの口元がピクリと引きつる。

「ありえません!こいつがうちのギルド唯一の白金等級だなんて!!冗談はやめてくださいフレイさん!!どうしちゃったんですか!?こいつに弱みでも握られているんですか!?」


此処のギルドに一人しか居ない事は知っているのか。

まあ、ここは王都に近い街だから金等級も結構いるが、小さなギルドでは金剛等級もいないのが普通らしいから、信じられんと言われればそれまでなのだが。ノイジーに関しては俺がそれだと信じられないというから、どんな奴なら信じられるのだろうな。

もっと冒険者らしいマッチョな奴だろうか?


「エルムさん」

「ん?」

「申し訳ありませんが、ギルドタグを見せていただけませんか?」

フレイが酷く悩んだ顔で俺に言ってきた。実物を見せて教えたいのだろう。

俺が答えないでいると、またノイジーが怒鳴ってくる。

「ほら!見せられないんですよ!皆何か勘違いしているんです!!」

ノイジーを見る爆発寸前というフレイの顔を見て、仕方なしに俺は後ろを振り向く。そこにはまだ行く末を見守るがごとく野次馬たちが待機していた。


その中で最前列にいた、見知った顔の新人冒険者を手招きする。

辺りをきょろきょろと見まわした後、自分の顔を指さすので俺が肯くと、恐る恐るといった動きで俺の所までやって来た。

「あの、なにか…」

「悪いな。トアのギルドタグを貸してくれないか?」

「ああ、そういう…。はいどうぞ」

首から下げていたタグを外して俺の手に渡してくれた。素直だなあ。


俺はノイジーの前に俺の首から外したタグと並べてぶら下げる。

「こっちが白銀等級。で、これが俺の。色の違いが分かるか?」

疑い深く俺を見てから、ノイジーは目の前にぶら下がった二つのタグを目を細めて見る。それから驚いたように俺の顔を見た。

「本物ですか?」

「当たり前でしょう。ギルドタグは偽造できない事は知っているでしょう」

俺ではなくフレイが答えたが、そんな言葉をノイジーは聞いちゃいなかった。


「わああ凄い!エルムさんって白金等級なんですか!?私初めてです!こんなすごい人の傍に居るの!!」

両手を胸の前で握りしめ顔を真っ赤にして、甲高い声で話しかけてくる。

…どうした?さらに頭が湧いたのか?


「あの!どうやったら白金になれるんですか!?私も冒険者になったらすぐになれますか!?秘訣を教えて貰えますか?白金等級はすごいお金持ちなんですよね!?」

俺は溜め息を吐いた後、ノイジーは無視してトアにギルドタグを返した。

「ありがとう、助かったよ」

「いいえ」

まだ緊張しているのか、小さく首を横に降ったトアにノイジーが怒鳴りつける。

「白金等級の方の横に立つんじゃねえよ!白銀等級風情が!!」

トアがびくりと身体を固くした。



「フレイ」

「…はい、エルムさん」

「こいつをどうにかしなきゃ、俺が手を下すぞ?」

「分かっております。本当に申し訳ありません」

俺とフレイの会話を不思議そうにノイジーが見ている。

視界の片隅にさっきからギルドマスターが映っているから、なんとでもなるのだろうが。俺がそっちに顔を向けるとガリガリと頭を掻きながら、ギルマスが近づいてきた。


「悪いな、エルム」

「限度が過ぎている。俺にだけ文句を言ってるなら相手にしないだけだが、他の冒険者を罵倒する奴がギルドに居ちゃ駄目だ」

「ああ」

俺とギルマスの会話に心底驚いたみたいな顔をしてノイジーが口を出してきた。

「何を言ってるんですか?二人とも。私はこのギルドの事を考えてですね」

「〈凍結〉」


さすが元冒険者の魔法。最速と言っていいスピードで単詠唱だ。ノイジーに台詞を最後まで言わせなかったフレイは、凍ったノイジーを見て盛大に溜め息を吐いた。

「本当に申し訳ありません。こちらで処置をさせて頂きます」

「…俺にじゃなくて、新人のケアをしてやれよ。随分暴言吐きまくりだったみたいだから。苦情は聞いてやれ」

「はい」

疲れた顔をしたフレイは、氷の塊を浮かせて地下への階段を下っていった。 

事態が収束したのを悟った食堂の冒険者たちが静かに会話を再開しだして、階段横にいた新人冒険者もボチボチそこを離れていく。


けれどまだギルマスがへの字口で俺の横に立っている。

「すまなかったな、エルム。あいつは貴族からの預かりもんでな。面接だけで適性試験とかはパスで入らせたんだよ。書類仕事は出来たから問題ないと思っていたんだがなあ」

「そっちの事情なんか知らん。不愉快なだけだ」

「怒ってるよなあ。すまん」

俺は残った酒を飲みほしてから、くしゃくしゃになった依頼書をギルマスに渡した。


「依頼終了の受理をしてくれ。あと部位の買取も」

「おお。もう終わったのか、有り難い」

「ロックリザードの間引きなんて面倒くさいやつ寄越すなよ」

「いやあ。お前以外に頼めるやつが居なくてなあ」

俺とギルマスの会話にグレイブが驚いた声をあげた。


「え、うそだろ!?エルムが間引いたのか?」

隣で大きめの声で言われる。なんだ?

「ああ。雌雄の区別が大変だった」

「いつ!?」

「…今日の午前かな」


「ああ~…」

グレイブがテーブルに突っ伏す。

「どんまい」

「タイミングのなさよ」

フェイムとタキタがグレイブに声を掛ける。

どうした?

疑問に思っている俺の顔を見て前の二人が苦笑を浮かべる。

「昨日の依頼、ロックリザードの部位の採取だったの」

「だけど数が居過ぎて全然取れなくってね」

「…なるほど」

確かに多数いるというよりは密集していると言っていいほどの数だったな。時間が掛かったのは確かだ。

「もう大丈夫だろう。明日行ったらどうだ?」

「そうするよ」

そう言ってから、またグレイブが俺にくっついてくる。

うっとおしい。


「グレイブは懲りないのね」

「ああ。俺はエルム一筋だ」

「俺は男なんだが」

「分かっている!その美貌が女性的だとしても男だと知ってるさ!」

こいつをどうにかしろと目線で訴えると、タキタが立ち上がりグレイブの襟元を掴んで空中に持ち上げた。相変わらずの腕力。


「行くぞグレイブ。私達だって金等級なんだ。しっかり働かないとな」

「それではエルムさん。またご一緒させてくださいね」

「…次はまともな時間だと良いがな」

くすくすと笑いながらフェイムが去り、タキタもグレイブを持ち上げたままギルドを後にした。グレイブのリーダーとしての立ち位置を疑う光景だが、あそこはあれで回っているのだろう。


何か言いたげな野次馬の中にまだトアがいるのを見つけたので、傍まで行って頭を下げた。

「迷惑に巻き込んですまなかった」

「あ、いえ、その、エルムさんは悪くないです」

トアが両手を前に出してひらひらと横に降った。

「俺が呼んだから暴言を吐かれた」

「言う人が悪いのであって、エルムさんは悪くないです」

前に一度だけ一緒に冒険をしたが、トアのチームは素直で良いチームだと思う。

「借りが出来たな」

「借りだなんて」

「後で返せる借りだといいのだが」

俺がそう言うとトアは目をぱちりと開いてにこりと笑った。


「じゃあ、困ったときに何かお願いしますね」

「分かった。善処する」

「はい」

にこりと笑うトアは可愛い女の子だからか後ろのパーティメンバーに軽く睨まれた。気にしないでおこう。そういう恋愛めいた事はそっちでやってくれ。俺は興味が無い。

食堂のテーブルを離れてギルドカウンターまで近寄ると、何時もは買取受付のワイモスがぺこりと頭を下げてきた。


「大騒ぎになりましたねえ」

「まったくだ」

そちらの責任だろうが、ワイモスはいつ見ても非常にのん気なので、俺が何を言っても動じなさそうだ。仕方なく手続きをして部位の買取を頼んだ。

「解体小屋に運びますか?」

「そうだな。持っていくから連絡してくれ」

「はい」

受付のすぐ後ろにある長い筒に口を向けて、ワイモスが俺が行く事を解体小屋に伝えてくれる。すぐ後ろの通路を通って行けばいいだけだ。


ああ。面倒な一日だった。

早く帰って寝たい。



お読みくださり有難うございます。


2024/06/08 改稿

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