魔術の基礎技術
魔術は大前提として魔力操作によって発動される。
魔力操作とは、欲動の制御に他ならず魔術師の適性とは理性ある人かどうかに拠るところが大きい。ただし、大きな感情、欲望は属性を偏らせ、その属性についてのみ多大なる適性を示す場合も存在する。
魔力感知は、魔力操作において重要な技能であるが、これは心霊魔術に近い技能で、一般的な認識としては共感に近い感覚である。この技能を極めれば、魔術に依らない読心さえも可能とされる。なお、その知覚は既存の五感に依存し、色として捉える者、音として捉える者と人によりけりである。
魔力の操作と感知を熟せるようになって、初めて魔術を行使し得る。
魔術の行使は、呪術、詠唱、魔法陣の三つの手法で可能だが、これらは本質的に自己暗示である。
主観世界への干渉が、魔力というエネルギーによって現実世界をも干渉するに過ぎない。明晰夢が正夢になるようなものだ。だからこそ、魔術の多くは一過性のものであり、永続することはほぼ不可能である。これを世界の修正と呼ぶ。
多くの者が誤解しているが、魔法学の研鑽は、世界の真理への到達ではなく、自己の心裡の解明である。
さて、魔術の発動について説明する。
まず、呪術について、呪術は原始的な魔術の発動技法であり、詠唱と魔法陣も大枠で言えば呪術である。
呪術は三類型に分かれる。
一つ、類感呪術。似姿に媒介する手法。例えば、放火の魔術であれば、赤い物からの連想によって火を放つ。似姿とはいうが、色や形、大きさだけではなく、触感や匂い、果ては音や味など似ている部分があれば理論上は発動できる。
一つ、感染呪術。縁に媒介する手法。例えば、放火の魔術であれば、火傷からの連想によって火を放つ。縁とは、血縁や所縁などの他に、接触など直接的なモノも含む。
一つ、契約呪術。意思に媒介する手法。例えば、放火の魔術であれば、火の知識を学び、火を観察し、火を明確にイメージすることで火を放つ。一つの類型として紹介される契約呪術だが、その正体は類感呪術と感染呪術の複合的手法である。火の知識によって、自身の記憶に火の似姿を形成し、火の観察によって、僅かなりとも縁を繋いでいるのだ。どちらも強固な似姿、縁とはならないが、その二つがあることで魔術発動に充分な媒介としている。なお、詠唱と魔法陣についてもここに分類される。
次に、詠唱について、詠唱は魔術言語の発音による魔術発動である。
魔術言語とは、言霊思想に基づく主観的言語パターンであり、魔術師の数だけ存在すると言っても過言ではない。言霊思想とは、言葉には力が宿るという思想であり、例えば、『火』という言葉そのものが『火の似姿』であり、『火』という言葉と『本来の火』が長き歳月に渡って結びつけられ縁を持つことに由来するという契約呪術的思想である。なお、この理論は、魔術発動の簡易化を目的とされ開発されており、真の魔術師には無用の長物である。
詠唱に用いられる文章は、いくつかの節に分けられ、この節が多いほど強力な魔術を発動できる。習熟した魔術は、この節を省略でき、この技能を短縮詠唱と呼ぶ。逆に、節を追加して魔術を強化する技能を修飾呪文と呼び、特に同時発動数を増加させるそれを反響呪文、発動を待機させるそれを装填呪文と呼ぶ。
なお、戦闘に用いるならば、当然、発動速度が最速となる一節が望ましく、その詠唱を特に一節詠唱と呼ぶこともある。さらに発展して無詠唱もあるが、これは詠唱の技能というよりも思うだけで発動する魔術発動の到達点であり、真の魔術師の当然の技能である。似て非なる技能としては、無言詠唱がある。これは、発音ではなく思考によって詠唱する手法で、詠唱時間は通常のそれと変わらない。
最後に、魔法陣について、魔法陣は魔術言語の記述による魔術発動である。
魔法陣は円状である。これは円状が特に安定するという認識に基づく魔術的安定に由来する形状であり、別の形状であっても理論上は発動可能である。実際、道具への固定付与に用いる魔法陣はただの文章記述であることも多い。
魔法陣は事前に魔素で描く場合と即席で魔力で描く場合の二種類がある。事前に描いたモノを刻印魔法陣、即席に描いたモノを瞬時展開魔法陣と呼ぶ。
魔法陣は、直径三十センチメートルを基盤に、記述する魔術に応じて五センチメートルごとに層を増やす多層構造をしている。開発初期には、立体的に幾つもの魔法陣を重ねる多重構造も提唱されたが、人類の知能限界として平面記述が望ましいとされ、多層構造に落ち着いた。
魔法陣は習熟すれば何層構造であったとしても瞬時に展開できる。そのため、短縮詠唱に相当する技能はない。また、発動を待機させるには魔力をわざと不足させるだけでよく設置魔法陣と呼ぶ。同時発動は、単純に魔法陣の数を増やすという技能ではあるがニの累乗という制限があり鏡化魔法陣と呼称される。ただし、修飾呪文に相当する技能は少し変則的で、層を増やすのではなく、直径十五センチメートルを基盤とする四つの小型魔法陣を連結する連結魔法陣を用いなくてはならない。これは、修飾呪文が短文で層の増設では図形としてのバランスが崩れるためである。
なお、無詠唱は同上、そもそも魔法陣の技能でもない。また、戦闘に用いるならば、魔法陣は相手に何の魔術を発動するのか暴かれやすい手法である。何故なら、情報を省略しないからだ。発動速度という観点で見れば一瞬であるが、これは真の魔術師を相手に何のアドバンテージにもならない。そもそもその一瞬があれば思考加速で解析が可能である。それに対抗する技能として、魔法陣を隠蔽する透過魔法陣がある。そのような工夫をしてまで、魔法陣発動が戦闘に用いられるのは、発動起点の自由度にある。ほとんどの発動手法が術者本人を発動起点とするのに対して、魔法陣は魔法陣を発動起点とするため、魔力操作に長けるならば、遠隔での発動が容易なのである。
余談として、魔法陣という言葉を分解し、その意を理解したとき、現状使用される魔法陣の手法に対して不適切であることが分かる。陣という語は、円環や文様を示す語ではなく、場を示す言葉あるいは場にある様相を示す言葉である。その由来は、魔法陣の使用が主に、床に対する記述によって為されてきたことにある。
よって、宙空や道具類にさえ記述される現行の魔法陣を正しい意味合いの言葉で表現するならば、魔法紋が望ましいとされる。




