6話 化け物姉妹とショッピング②
数時間後、一同は買い物を終え、昼食を食べていなかったことを思い出し、デパート内にあるカレー屋に来ていた。ちなみに陸斗の要望である。
カレー、ラーメン、うどん、スパゲッティで陸斗、拓海、美空、愛夜華でじゃんけんした結果、陸斗が勝ったのである。フードコートに行けというつっこみは受け付けていない。なぜカレー以外麺類なのだろうか。
カレーにより陸斗と拓海はある程度精神が回復したようだが、若干一名、さらにダメージをくらった者がいた。
「…………」
美味そうにカレーを食べる面々の隅で完全に生気を失った瞳でカレーを作業のように口に運んでは咀嚼して、飲み込む。ただそれだけを淡々と続けている少女、白夜である。
別にカレーが死ぬほど嫌いだったとか、生気を失うほどまずかったとかそういう話ではない。そもそもそれを言うならこの世に存在する食べ物全て大嫌いである。だが、これはそんな好き嫌いとかではなく、それ以前の問題だ。
昨日の昼間の行動から察した者もいたのではないだろうか。
今の白夜には、味覚が無い。
ついでに言うと痛覚もだ。一時期は色覚や話す能力すら無かったが、今は問題ない。
このため、昨日の昼間にチャーハンを食べた時にはため息を吐いていたし、ベットから盛大に落下しても痛みに顔をしかめることすらなかった。
例えば飴を口に入れたところで石ころを舐めていることとの違いは分からないし、肉を食べたところでゴムを噛んでいるのと変わらない。そのくせ嗅覚は常人より遥かに優れている。
想像してみよう。目の前に美味しそうなステーキがある。とてもいい香りがする。お腹もすいている。食べてみる。味がしない。
はっきり言おう。地獄である。
白夜はそれがかれこれ四年続いている。そりゃあ死にたくもなる。もちろん白夜が死にたいのはそれが理由ではないが。
そんな白夜が家で料理も担当しているのにはもちろん理由がある。
理由はいたって単純、手順通りにすればまず失敗はしないからである。
しろの3分クッキング〜。
まず、スマホを用意してください。
次にクルクルパットを起動してください。
作りたい料理を検索してください。
書いてあるとおりにしてください。
以上。
と、そういうわけである。3分かどうかは問題ではない。
白夜いわく、「料理は『愛情』でもなけれは『化学』でもない。料理は、『作業』だ!」とのことである。
つまり『化学』では? というつっこみも受け付けていないらしい。
言っていることがめちゃくちゃだが、四年にわたる無味料理生活で多少(?)おかしくなっているので仕方ない。
そもそも、〈特異点〉など頭のネジを五、六十本前世の母親の腹の中に置き忘れてきたような連中である。つまり取りに行きようがない。
要は、今更追加で何本か抜けたところでたいして変わらない。というか壊れている方が正常と言われるくらいである。
異常が正常、〈異常者〉と書いて〈イレギュラー〉とも読まれる。
話を現状に戻そう。
カレー(小)を高速で食べ終えた白夜は、一言だけ「ねる」とだけ言い、目を閉じた。最小限の食事量で最大限のカロリーを取ろうという考えである。白夜が空いた時間を大体寝て過ごしているのも同じ考えである。
以前、何も食べたくないので一週間近く水だけで過ごし、結局栄養失調で倒れた事があった。それ以降、最小限の食事だけを取るようにしている。
ちなみにその時「いやもうまじでむりです。カロリーのお友達とかサプリだけじゃだめですか?」と、倒れた件で叱られている最中であることも気にせず言ったことがあるのだが、残念ながら却下された。
あと、他のメンバーが特に白夜に気にせず普通に食事をしているのは、白夜の「下手に気を使われるのは腹立つからやめて」という発言のためである。それでもはじめは気を使っていたのだが、白夜が頑として譲らなかったので諦めて開き直る事にした。という経緯がある。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、全員が食べ終わり、白夜を起こそうとするも、ゆすっても振り回しても投げても起きないため、仕方なく陸斗が背負って運ぶことになった。
おそらく疲労が溜まっていたのだろう。人格安定剤の副作用の一つの、慢性的な眠気によるものもある。もう一つの副作用である頭痛は、先程言った理由により、白夜には関係ない。
ついでに人格安定剤についても説明しておこう。説明が多い? 今回は説明回なので。
前にも説明した通り、白夜は四年前のとある出来事により、多重人格になっている。
そのために愛夜華が作ったのが、白夜が毎晩飲んでいる人格安定剤である。人格安定剤だが、その名の通り人格を安定させるための薬である。分かりやすくて助かる。……単純に愛夜華のネーミングセンスが無いだけかもしれないが。
そしてその副作用だが、まず、飲んで効果が出始めると脳の容量の大部分が使われ眠る。これは寝ている間だけではなく、薬が効いている間はずっとである。
人の脳は普段、全体の30パーセントしか使われていないという。これには様々な説があるが、とりあえず30パーセントということにしよう。
そのうち、白夜は薬によって脳の演算機能の約3分の2が圧迫されているため、実質的に普段から使うことができるのは全体の10パーセント程度である。これで大体、頭脳型の準〈特異点〉にぎりぎり届かない天才一人分の演算能力である。
つまり白夜は一応身体能力型の〈特異点〉にも関わらず、頭脳型の準〈特異点〉にぎりぎり届かない天才の三倍の演算能力を持っていることになる。もちろん愛夜華はそれ以上だ。
演算能力=天才というわけでもないが、単純に頭の回転が早いというだけで見れば驚異的である。
最初に眠ることに関しては、しばらくすると起きるが、脳が休めていないため、脳に疲れが残るので慢性的な眠気に襲われる。
眠気がピークになると気絶するように倒れる場合もある。
本人いわく、「なにかに集中するなり気を張ってたら寝ずにすむけどめんどくさいから普段はしない」とのこと。
それもそうだ。睡眠が足りていないのが原因なのだから無理をして起きるということは連日意味も無く徹夜し続けるようなものである。
それで本当に必要な時に倒れるようでは本末転倒もいいところである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなわけで、結局力尽きて陸斗に背負われる白夜。現在デパートの駐車場に向かっているところだ。
「それで? りく、ご感想は?」
「無に等しい」
愛夜華から茶々がはいるも、顔色ひとつ変えずに返す陸斗。
ちなみに何の話かは想像におまかせする。本人が聞けば文句が入りそうだが、幸い本人の意識は無い。
「それにしても……」
白夜の寝顔を眺め、少し考え込みながら昨日から全員が、本人すらも思っていたが誰も言わなかったことを口にする。
「見れば見るほどあの子そっくりねぇ……」
「……そうだな」
「「「………」」」
おそらく思わず口に出しただけなのだろう。普通ならデパートの喧騒にかき消されるような音量で発されたつぶやきは、その場にいた全員の耳に届いていた。
とりあえずといった感じで陸斗が返事をする。
全員が、暗いわけではないが、とても明るいとは言い難いなんとも微妙な表情になる。
そんな微妙な空気の中、一行は帰路に着くのだった。
白「……どうも。現在りくの背中で夢の中、紅月白夜です」
陸「親友背負って三千里、如月陸斗です」
白「今回から二人になったんだね」
陸「作者の気分と物語の状況によってメンバーも人数もランダムらしい。ちなみに今回本来は田村さんの予定だったらしいぞ」
白「……相変わらず不憫な人だね……。っていうか『無に等しい』って何かな?」
陸「本編ではお前寝てんだから聞いてないはずなんだけどな? ほらあれだ、体重。あ〜軽いわぁ〜」
白「……まぁ、いいや。ここは舞台裏だからね?」
陸「メタ発言も構わないと? まあ、たしかに拓海もアイツとか言ってたしな。今回からは分かりやすく作者って言うことになったけど。っていうか今回えらく更新遅かったな。昔はほぼ毎日してた時期だってあったのに」
白「……いつの話?」
陸「3、4か月前だな。この頃は2、3日に一回くらいのペースだった」
白「まあ、今回は説明回だったからいろいろ詰め込んだのと途中でデータが吹っ飛んで絶望してたってのと、あとこれの外伝? 的なやつの設定とかも調整してたからね」
陸「外伝って……。本編ちゃんと書いてからにしろよ……。あとこれのタイトルの略称が決まったんだって?」
白「ごもっとも。一度始めると止まらないんだよ……。こっちのストーリーも最終回と後日談までしっかり決まってるけど書く手が追い付かず、もともと裏設定くらいだったやつを形にしたんだって……。あと略称は昨日ふと思いついたらしい。たしか『しにせん』だって」
陸「死に戦? あぁ、『(死に)たがりのTSVR(戦)記』で『しにせん』か」
白「漢字でもひらがなでもどっちでもいいらしいよ。あと他に良いのがあったらアイデアお待ちしてます、だって」
陸「そうか。……ってそもそもこれ次回予告! 早く次回予告するぞ!」
白「………? あぁ、そういえばこれいいわけと報告会じゃなかったね。それじゃ、どうぞ」
陸「丸投げかよ! え〜っと、家に帰って一晩経った紅月ファミリー、いろいろあったのでとりあえずしろが他人格と相談会? をするらしいです」
白「次回:『脳内会議』 次回もお楽しみに!!」
陸「最後だけしっかり持っていきやがった!!」