32話 〈光翼の天師〉
いや、違うんですよ(言い訳タイム)。
ええ。時間がなかったんですよ。だって春休み終わる前からなんか1日も休みないし、レポートとかあるし。
断じて学校終わりやバイト前にグリッドマンもコナンもマリオも行ってませんよ?
それはそれとしてカニは普通。
「バフ入りま〜す」
「──《光輝盾》!」
「──《紅蓮爆》!」
「はぁああああ! ──《エクス・カリバー》あああぁ!!」
【闇の森】中層、薄暗い森の中で白夜が狩りをしていると、奥から1人を除いて気合いの入った掛け声が響いてきた。
どうやら、どこかのパーティが戦闘中らしい。かち合っても面倒だし、少し離れようと音のする方に背を向け──
──バキベキバキ!
「んん!?」
背後から木々がへし折れるような音が聞こえ、咄嗟に飛びのくと、先程まで白夜がいた場所を巨大な蜘蛛が猛スピードで吹っ飛んでいった。
「……あっぶな」
流石に巨大蜘蛛に潰されて死にたくはない。
少し離れた場所で粒子へと変わっていく蜘蛛を眺めていると、背後から騒がしい声が聞こえてきた。
「そこの君! すまない! 大丈夫だったか!」
「だ・か・ら! 吹っ飛ばさないでぶった斬れって言ってるじゃないですか! エネルギーの無駄だし危ないです! ほんとバカ勇者がすみません! ほら、勇者さんは早く土下座してください!」
後ろを振り返ると、金銀の鎧に金髪の少年が隣の少女に背中を押さえられ、(半ば強制的にだが)頭を下げていた。
地面まで押さえつけられないようにギリギリ耐えているが、少女の方が力のかけ方が上手い。そろそろ地を這うことになるだろう。
「へぶっ!」
「ほんとにすみませんでした。怪我とかありま……せん……か……。……え?」
少女は下げていた頭を上げながら隣の少年の脚を払い、少年が地面に倒れるのを横目にもう一度謝罪を口にすると、それが不自然に途切れる。
その少女は、腰まである薄い金髪に黄金の瞳、巫女服と狩衣を合わせたような白い装束に身を包んでいる。
だが、問題はそこではない。
問題は、その少女が白夜と瓜二つであること。
少女は目を見開いて驚いており、白夜もきょとんとしており、少し無表情がくずれている。
「…………さく……や……?」
「え?」
「………いや、なんでもない。人違い」
思わずといった感じで白夜の口からこぼれた言葉に少女が反応するも、すぐに訂正したことにより、微妙な空気が生まれる。
「……えっと、わたしはクロネって言います。東の島国から王都に帰る途中の成り行きで〈勇者パーティ〉の子守りをやってます。よろしくお願いします」
「しろです。基本、王都か【闇の森】にいる。よろしく」
相手の少女、クロネが思い出したかのように自己紹介をしたため、白夜もそれに返す。
クロネがまじまじと白夜の顔を見ているのは気になるが、自分と同じ顔が目の前にいればそういう反応になるだろうと、流すことにする。
一瞬、クロネの黄金の瞳が紅く妖しく輝いた気がしたが、それも流すことにする。
「あの! もしかして」
先程までどこか緊張気味だった表情を変え、顔には喜色を浮かべ、目をキラキラとさせたクロネは、一足飛びに白夜に近づき、その両手をがしっ、と握り、ぶんぶんと振る。
「同じ顔ってことはお仲間ですよね!?」
「ん? 何の?」
「お姉ちゃんって呼んでもいいですか?」
「いいよ」
「やったあ! ありがとうございますお姉ちゃん!」
「!????? ………?」
クロネの背後では先程まで地に伏せていた少年が立ち上がりながら目を白黒させていた。話の内容と状況が理解できていないのだろう。
大丈夫、白夜も理解していない。なぜ了承したのかもわからないが、わざわざ拒否するだけの理由もなかった。それだけである。
頭の中では『とりあえず良いって言ったし義妹として認識すればいっか』ということしか考えていない。
「というか、王都を拠点にしてるお姉ちゃんがここにいるってことは、ここはもう王都の近くなんですか?」
「そこの勇者の人助けとお節介のために回り道に回り道を重ねて、果てには【闇の森】を突っ切ることになり【方向感覚破壊】とかいう見たこともないデバフを食らい下手人のボスモンスターには逃げられ、マップも使えずまっすぐ歩いている自信もなかったんですよ」
「………大変だったね」
「そうなんですよ!」
あまりにも過酷な旅路(しかもここ最近のことだけでこれ)に、思わず同情の目を向ける白夜に、クロネが全力で同意する。
「し、仕方ないだろ……。あのまま放ったらかすわけにもいかないし……」
「いや、この際子供は別にいいんですよ? でも大人は自己責任では? 夜遊びだかなんだかで借金抱えて娼館に売り飛ばされそうな人とか助ける必要ありました? ……いや、それも一旦置いておいて純粋な疑問として、なんでこれみよがしに勇者さんの目の前で困ってる人達は全部女なんですか?」
「それはただの偶然だろ」
「一度目偶然二度奇跡、三度目必然四運命って言葉がありましてね? 四度どころじゃないので、もうそういう星の下に生まれたんでしょうね」
「……ずいぶん古いの知ってるね」
自分の親の世代でもいったいどれだけの割合がわかるのかという、某愛に生き愛に死んだ漢の名言に、思わずツッコミを入れる白夜。
なお、白夜は父親の影響で知っていた。
「と・に・か・く!『王都あたりまで』という契約は果たしました! こんなところにいられるか! わたしはパーティを抜けさせてもらいます!」
どうやら、既に我慢の限界だったがデバフのせいで抜けるに抜けられず、ちょうど現地民を見つけたのでこのまま勢いに任せて逃げるつもりらしい。
必死さすら感じるのは、このままこいつらと一緒にいるとまた厄介事に巻き込まれると思ったからか。
いつの間にか白夜が案内役になることが決定しているようだが、別に構わないだろう。義妹だし。
しっかり死亡フラグを立てながらパーティ脱退の操作を終わらせたクロネは、「それじゃ!」とだけ言い残して白夜の手を引いてそそくさと去ろうとするが、残念、そっちは森の奥である。本当に方向感覚を破壊されているらしい。
くいっ、と手を引かれ、首を振りながら自分が進もうとした方向と逆方向を指さす白夜に、クロネは少し顔を赤くしながら大人しく白夜に手を引かれる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
そんな少し微笑ましい光景に水を差す男。そう、勇者である。
「しろに──」
「あ?」
「しろ……さん? に聞きたいことが……ある……のですが……よろしいでしょうか?」
呼び捨てを許さない白夜と、クロネの「今度はなんだよなんの面倒事だよ」と言いたげなうんざりしたような視線に、さすがに面倒をかけた自覚はあったのか、尻すぼみになっていく勇者くん。
「ん? なに?」
クロネはともかく、白夜には勇者に冷たくする理由はないため、普通に答える。クロネの圧は止まらないが。
「しろさんやクロネさんとよく似た見た目の女の子を知らないか? 探してるんだ」
「………ゲーム内の話?」
「いや、リアルの話だ。リアルの話をここに持ち込むのは申し訳ないが……」
「ああ、わたしと最初に会った時も同じことを聞いてましたよね〜。わたしと同じ顔の人なら心当たりはあるんですけど、どこの誰かは知らないんですよね〜。お姉ちゃんは知ってます?」
クロネが横から聞いてくるが、白夜はしばらく黙り、勇者くんの方に向き直る。
「………。探してどうするの? 復讐?」
「そっ、そんな物騒な話じゃない! ただお礼を言いたいだけなんだ! 頼む、なにか知っていたら教えてくれ!」
真剣な眼差しで白夜を見る勇者に、
「知らない」
それだけを告げる。
「本当に何か知らないか? 心当たりとかは……」
「知らない」
きっぱりと言いきる白夜。知らないものは知らない。心当たり? ごめんよく聞こえなかった。
白夜は「それじゃ」とだけ残し、勇者に背を向ける。
「まっ──え!? はやっ!?」
勇者が引き止めようと声を上げるが、既に二人の姿はなかった。
「コウくーん! 消火終わりましたよー!」
遠くから聞こえてくる仲間の声に振り返りながら、
(あれ? 俺達も一緒に連れてってもらえば森から出れたんじゃね?)
今が緊急事態であることを思い出し、慌てて森の奥へ呼びかけるが、返事が返ってくることはなかった。
勇者くんの特殊能力、《ラッキースケベ》をギリギリ回避しつつ、勇者パーティの解決した面倒事の後始末をし、悪い人に面白いくらい騙されるバカとその全肯定女しかいないパーティの手網を引っ張るという、ストレスしかない仕事を、『契約だから』という理由だけでこなしていたクロネ。かなり必死です。
ちなみにハーレムメンバー共は森の中で炎をぶっぱなしたので消火作業。
次回『戦争だってよ』次回もお楽しみに!!




