27話 吸血鬼城攻略再戦④
作「→→↑↑↓B(ダイナミックジャンピング土下座コマンド)」
白・血「「うわぁ……」」
作「仲良いなお前ら」
白「遅い。2ヶ月も何してたの」
血「私2ヶ月も光の中へ消えていったままなんですけど。天誅! って」
作「《天柱》な。作者もそろそろ土下座レパートリーがなくなりそう」
白・血「「話をそらすな」」
作「バイトしたり……リコリコ観たり……エンゲージキス観たり……風都探偵観たり……オーズと鎧武一気見したり……その他それ関係の映画とか……つまりほぼバイト」
白・血「「今のでよくそれを主張できたな」」
作「いや、実際半分以上はバイトなので……あとは空き時間に……」
白・血「「いや、そこで書けよ」」
作「………また腹斬るか。出てきた腸は適当に売ってくれ」
血「いや、いりません」
白「お前が下げる頭にも、お前のその命にも、大した価値はないんだから早く書け」
作「……あれ、土下座の意味は?」
白・血「誠意」
作「うっす! ケジメつけます! ↓↓↓↓↓(追加土下座コマンド)」
──光・聖属性複合上級魔術《天柱》
閉じ込めたものを光熱でじっくり焼く聖なる光の柱。
上級の悪魔や呪霊を祓う時の教会の切り札。吸血鬼を相手に使うには、本来かなりのオーバーキル。
中級魔術までしか扱えない魔術符を使用している白夜が上級魔術を使っているのは、魔術符のメリットとデメリットをそのまま引き継いだ上位互換のアイテムがあったためである。
魔術符とは比べものにならない程のコストがかかるため、作るやつも買うやつもいないが。
《天柱》の光が収まり、直前までセレナがいた場所では再び高温の霧が発生し、外からでは中の様子が伺えない。
「……っ!」
(いったぁ……まじで痛い。ギリギリ水と魔導結界と耐性付与で効果を減衰させましたが、もうちょいで焼け死ぬところでした)
光の柱に飲み込まれたセレナだったが、ギリギリのところで生き延びていた。
できる限り大量の流水を発生させ結界を構築、その中に対光学結界を張り、さらに自分に《聖属性耐性》を付与。そこまでしてようやく全身の大火傷で済んだ。
(せめて水で光を乱反射させるんじゃなくて土壁か氷壁でも使えればよかったんですけど、土属性も氷属性も効果が出るのに時間がかかるんですよねぇ……)
そうは言うが、瞬間的に三つの魔術を同時展開させられる魔術師はかなり少ない。まともな魔術師なら、今の白夜の攻撃ですでに死んでいるだろう。
(最初の空気砲の意味がわかりませんでしたが、確実に防げる攻撃で防御にまわらせ、魔力たっぷり水蒸気爆発で視界を塞いだわけですか)
魔術で出された水は、もちろんだが魔力濃度が高い。
そのため、魔術で出された水から発生した霧の中ではセレナの持つ《魔力視》や《魔力感知》が阻害され、まともに機能していなかった。
そんな目隠しされた状態で、さらに《空間感知》に引っかからない光属性魔術。真正面からの完璧な不意打ちだった。
セレナがあと少し霧を晴らすのが遅ければ、なんの防御もできずに消滅していた可能性もあった。
(それよりまずいですね。またしろちゃん見失いま──)
「そこッ!」
気配を察知し、咄嗟に背後に槍を横なぎに振るうが、白夜は腰を落として回避し、そのまま左手のナイフをセレナの右目目がけて投擲。
セレナは一瞬、背後にまわられる可能性と一瞬片目を失うリスクを天秤にかけ、首を傾けて回避を選択。
白夜が左手に持つナイフを注意深く観察し、
「やばっ!」
槍を持たない左手の爪を鋭く変化させ、首筋に迫っていた極細のワイヤーを切断する。
(ブーツにワイヤー仕込んでましたか。いつの間に巻かれました? ナイフで視界が塞がった時ですか……!)
バキン、という何かが砕ける音が聞こえると同時に、背後の先程のナイフの軌道に槍を防御のため構えるが、ッッッパァン、という、連なった銃声と共に、三発の弾丸が腹部に突き刺さる。
腰だめに銃を構える、西部劇のガンマンのような早撃ちスタイルの射撃と同時に放たれた空中にいる白夜による上段からの全体重を乗せた振り下ろしは槍で防御することができたが、ダムダム弾による腹部の重い衝撃に思わず一歩下がる。
白夜はセレナのその隙を見逃さず、背中と両肩から影を噴射。その勢いでセレナの腹部にゼロ距離飛び蹴りを決める。
「ぐぅっ! いや、グ○スか!」
「夢が叶った……!」
どこか満足気な白夜はさらに大鎌を振るい追撃し、まだつっこむ余裕があるらしいセレナは防戦一方となる。
着地から一度も勢いを落とさずに大鎌を振るい続け、くるくると回転しながら連撃を叩き込む白夜に対し、セレナは防御を止め、背後へと大きく跳躍する。
白夜の《天柱》からここまで、まだ10秒も経っていない。
「ちっ……」
「さすがに、この距離では当たりませんよ」
跳躍中のセレナに、スピードローダーによるリロードと早撃ちを決めるが、半分は体を捻って回避され、残りは槍と再び変化した爪で迎撃される。
白夜は再びリロードし、拳銃を左太腿のホルスターに収める。
「ていうか、左腕はどうしたんですか? 骨が折れた腕で射撃とか正気ですか?」
「繋いだ」
「いや、《高速再生》じゃ骨を繋ぐにも………まさか、《戦鬼》? え? 【死兵】のジョブ持ってるんですか?」
「正解」
──希少職【死兵】
死を超越し、ただ死ぬまで敵を殺し続ける殺戮兵器。戦場の悪夢。
《高速再生》等回復系はもちろん、魔力を消費し破損した骨をギプスのように固め、ちぎれた神経を魔力で繋ぎ、失った臓器や四肢を魔力で形成する《戦鬼》、その他にも即死回避や消費緩和系、自爆系スキルをジョブ習得時に獲得する。
とにかく継戦能力が高く、燃費が良い。
死してなお敵を殺すという意思が強いことがジョブ習得の最低条件。
白夜の場合は、前回殺される直前に習得条件を満たした。
「えぇっと……馬鹿なんですか? いや、正気? ……いや、待てよ? もしかしてプレイヤーはあんまりデメリットない? え、いいな〜」
《戦鬼》を代表とする【死兵】限定スキルは、使用する度に寿命や記憶を消費すると言われている。
しかし、プレイヤーには一部スキルに対する保護機能が搭載されており、寿命や記憶の消費や精神汚染等は緩和、もしくは取り外されている。
さすがに市販のゲームで寿命や記憶削って精神汚染はまずかった。
なお、それが決まった時の某お姉ちゃんと共同開発者のMADは、
「強力な力をリスクもなしに使うとかふざけんじゃないわよ! それをいかにして踏み倒すかを工夫するのが力に対する向き合い方でしょ!」
「全くだ! 寿命や記憶程度のもので本来なら一生かかっても手に入らない力が手に入るんだ。安上がりも良いところじゃないか! むしろ等価交換が成立しているのかを心配するレベルだ!」
と、大層ご立腹のご様子だった。
「世の人々はしっかりと払うもん払っているというのに最近の若者は……」
「年寄りか」
「一応2000歳ですよ」
「ロリババ──なんでもない」
「言ってますよ? もうほぼ言いましたよ?」
二人とも軽口を叩いているが、実のところはお互いにかなりギリギリである。
白夜はMPや影、魔術符の残量がほぼなく、他にも無茶な動きの代償を、《戦鬼》で仮止めしている状態であり、セレナはかなり呪いが響いており、最初はあったお互いのステータス差も、ほぼ誤差レベルまで縮まっている。さらに、
「気づいているとは思いますけど、わたしはHP回復系のスキルを停止する代わりに、《超速再生》のスキルを底上げしています。つまり、ゲームのキャラクターみたいに瀕死の状態でも元気に動き続けますが、肝心のHPが回復しません。……まあ、そろそろ限界なので次で終わりって話です」
次の攻防で、白夜はMPがなくなり《戦鬼》が切れてまともに戦うことが出来なくなり、セレナはHPが尽きて死ぬ。
つまり、次の攻防を凌ぐことができた方が勝ち、できなければ負ける。単純な話である。
互いにそれを理解し、無駄話は終わりだとばかりに空気が張り詰める。
「そう。じゃあ──しね」
「そうもいかないんですよっ!」
白夜が話しながら大きく踏み込み、一瞬にして互いを間合いに捉える。
セレナもそれに対処し、大鎌の一撃を槍で防ぎ、左手で雷撃を撃ち込もうとするも、一瞬だけ展開された小さな結界により防がれる。
長時間にわたる戦闘で、互いに相手の動きが読めるようになり、相手の次の手を読み合い、それを潰す。
一瞬気を抜けば死ぬ。そんな攻防の末に、
(あっ……)
ピシッ、と何かが軋むような音が聞こえる。
白夜の大鎌のMP吸収に対して、過剰にMPを注ぎ続けることで維持していた、セレナの槍にヒビが入った音である。
セレナはその少しの綻びを修復している余裕はないと判断し、槍を大鎌に絡め、一本釣りの要領で強引に大鎌を奪う。
そのまま拳でのインファイトに変更しようとするが、
「──こっちも限界だクソがぁっ!!」
「お口が悪いっ!!」
大鎌に残っていた微々たる量のMPを自分に移し、すぐに大鎌から手を離した白夜が、最後の影を拳に纏わせて殴りかかる。
セレナは咄嗟に強化した左腕で防御する。
ボキィッ! という異音が腕から聞こえる。絶対砕けた。あと白夜の拳も。
ひゅん、という風切り音とともに、互いの回し蹴りがぶつかり合う。今度はちゃんと強化したため、砕けはしなかったが、大きくヒビが入った。
「──《疾風迅──ぐぅっ!」
互いに未だ両足が地に着いていない状態から、セレナが強引に風と雷を纏った体当たりをしようとするが、直前でセレナの左側の地面が爆発し、体制を崩す。
セレナまだ右脚が再生していないために踏ん張ることができないが、白夜の左脚は問題ないために踏ん張ることができた。
だが、今の攻撃で魔術符を使い果たし、MPも残り僅かになった。
セレナの体制が崩れたその瞬間、白夜が左手で拳銃を構えているのに気づく。
(脚の再生……治りが遅い。MPが少ない。翼で防御……翼ねぇよ。結界……間に合わない。腕で防御……2発目で死ぬ──)
刹那の時間が引き伸ばされ、セレナの脳は生存の道を探すが、それと同時に、セレナの意識は白夜の持つ拳銃に注がれていた。
セレナにとっては見慣れた、かつての相棒が愛用していた銃。
銃を改良し、弾を改良し、二人で試行錯誤を繰り返し、最適化させてきた思い出の代物。
(──まあ、これで殺されるなら、いっか)
身体から力を抜き、引き伸ばされた時間の中で、引き金が引かれていくのを横目に目を閉じる。
「──おやすみ。■■■」
(ははっ……さすがですねぇ……■■ちゃん)
そして、小さな銃声とともに、2000年もの時を駆け抜けた小さな吸血鬼の意識は闇へと落ちた。
◇ ◇ ◇
── 覚醒個体【吸血姫 セレナイト・スカーレット】の討伐が確認されました。
──覚醒個体討伐特典対象者条件を、個体名『しろ』が達成しました。
──覚醒個体を、覚醒個体討伐特典に変換。開始します。
──支配者『夜の王』より、要請がありました。
──支配者『夜の王』の要請は承認されませんでした。
──ま、だ………しねな……ザザッ……
──領域外魔法の発動を検知しました。
──これは管理者の権限を超過するため、創造主、あるいは製作者へ指示を乞います。
──創造主より応答。個体名【吸血姫 セレナイト・スカーレット】の要請は承認されました。
──創造主より個体名【吸血姫 セレナイト・スカーレット】へ、メッセージが送信されました。
──『はァ──ッハッハッハ! 素晴らしい! まさか自力で領域外魔法にまでたどり着くとは! さすがはあの紅月神祖の末裔だ! わざわざ騙して誘拐まがいのことをしたのは正解だった! 君がこれから何をしようが、決して私は邪魔をしない。好きにするといい。私が言うのもおかしな話だが、幸運を祈る。はァ──ッハッハッハ!』
──以上でメッセージは終了しています。
──覚醒個体【吸血姫 セレナイト・スカーレット】を、覚醒個体討伐特典固有職【吸血姫】に変換。完了しました。
──覚醒個体討伐特典固有職【吸血姫】を、個体名『しろ』に譲渡。完了しました。
──王位の簒奪を確認しました。
──支配者階級称号『夜闇の王』を、個体名『セレナイト・スカーレット』から、個体名『しろ』へ譲渡。完了しました。




