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勇者2世は世界を奔る  作者: 陽太
第一章 学院編
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第8話:魔法式

「まず、一般的な意味での魔法が魔術になる過程としては、魔法想像→魔力注入→魔法制御の3つのプロセスを辿る必要があります。」


魔術発動には、この3つのプロセス全ての能力が必要になる。そのため、ある程度の才能がある者しか魔術は本来扱うことができない。それが魔法式誕生までの常識であった。


「しかし、魔法式の発明によりそれは劇的に変化しました。魔法式とは、魔法想像力のイメージを記憶として魔法具に落とし込んだものであり、魔法想像力の代替物といえます。」


この魔法式の発明により、いわゆる魔法の才能がないものでもある程度の魔術を扱えるようになった。それが魔術師の急増にも繋がった。

実際、この学院でも魔法式を常時使用している生徒は少なくない。特に、魔法想像力の乏しい者にとっては、魔術発動時の必需品となった。


「つまり、魔法想像力を使わない、魔法式を使用する魔術発動を一般的でない、いわゆる例外的な魔術発動といいます。」


そう言葉を締めくくり、説明を終えた。まあ今では魔法式の使用による魔術発動のほうが圧倒的に増えているから、例外的なとも言い切れなくなってきてはいるが。


「さすがだ、2世。よく勉強しているな。」


リオンは満足げな笑みを浮かべる。


「そう考えると、魔法式ってすごいですよね。魔法想像力の必要性を根底から否定しているんだから。」


 ある生徒がそれとなく発言する。まあ普通に考えればその結論にたどり着くことはわかる。僕も初めてこの魔法式を知ったときは同じ感想を抱いた。

 だが、それは実は間違っている。魔法式には大きな欠点があるのだ。それも2つも。


「いや、それは間違いなんだよね。」


 トライスが声を上げる。


「確かに、魔法式は素晴らしい発見であることを否定するつもりはないよ。でもね、、魔法式には、大きく2つの欠点があるんだよ。まずは、魔法の威力の上限。すでに決められている魔法式を読み取り発現させるため一定の魔術は誰でも使える。しかし、魔法式以上の魔法想像力のスペックを持つ者にとっては、通常より威力の弱い魔術を発現させることになり、魔法式はただの足かせにしかならないんだ。」


 つまり、優秀な魔術師にとっては自らの魔法想像力を使えば100の魔術を発現できるところを魔法式を使うとその6~7割程度の魔術しか発現できないことになる。

 もともと魔法式に組み込まれている魔法想像力を上回る魔法想像力を持つ者にとっては、やはり要らない、いや、邪道な代物といえる。


「次に、創造性の欠落。誰もが魔法式を使用してしまえば、そこに個性は生まれない。つまり、新しい魔術の創造が後退してしまうんだ。魔術とは、その可能性を探るものでもある。だからこそ、魔法式はその可能性を潰すものにもなってしまうんだ。」


 誰もかれもが魔法式を使用する社会が到来してしまうと、そこに魔術の創造性は生まれない。そこにあるのは、魔術の再現性しか存在しない。

 しかし、それは魔術本来のあり方ではないはずだ。皆同じ魔術を同じ威力で再現できるという平等な社会が訪れるかもしれないが、魔術社会が求めている理想は違う。

 魔術社会は魔術師一人一人が固有の魔術を扱う個性社会を目指しているのだ。ゆえに、魔法式は魔術社会からすると時代に逆行する道具とも捉えられる。


「そう考えると、魔法式のメリットってなんなんだろうな?」


 別の生徒がつぶやく。今の話を聞くと、魔法式を積極的に使用する理由はあまりないように思える。


「いくつか魔法式使用にはメリットがあるとは思うけど、やっぱり、魔術発動までのスピードじゃないかな。」


 トライスが再び答える。


「確かに威力自体は魔法創造力のほうが上だと思うけど、魔術発動までのスピードに関しては圧倒的に魔法式のほうが優れていると思うよ。だからこそ、適材適所で使うのが正しい使い方なんじゃないかな?」


 トライスの言うとおり、威力を取るか、スピードを取るかはその場その場の状況によって変わってくる。その場において、どちらを使うのが正しいかを判断するのも一流の魔術師か否かを分けるところにもなる。


「先生、この魔法式って俺たちに関係あるんですか?」

「大いにあるぞ。諸君たちが腰にぶら下げている刀のなかにはこの魔法式がエンチャントされているものもある。」


 みな一斉に腰に構えている刀を見る。剣術クラスの生徒たちは常時刀の帯刀が認められている。ちなみに、僕も愛刀にいくつかの魔法式をエンチャントしている。


「特にクロスレンジでの戦闘を想定している諸君にとっては、とても魔術を一から構築している時間はないはずだ。だからこそ、前もって刀に魔法式を付与してその発動時間の短縮を図っているんだ。」


 他にも、剣術クラスにおいては魔術の発動を苦手にしている生徒が多数いることも刀に前もって魔法式が付与されていることの理由の一つになる。

 しかし、一流の剣術士になればなるほどに、刀に付与されている魔法式の数は少なくなる。一流の剣術師は、目まぐるしい近接戦闘のなかでも魔法創造力を使い魔術を発動させている。

 戦局は二つと同じ展開はないため、基本的にはその場にあった魔術を使用する必要がある。

 そして、そのためにはある一定のものしか発動できない魔法式では到底対応することができない。ゆえに、実際の戦場においては、魔法式はあまり頻繁には利用されていない。せいぜい足止め、時間稼ぎ程度にしか使われないだろう。

 だからこそ、今現在において魔法式を過多に使用している生徒たちはその意識を変える必要がある。

 魔法式とは、日常レベルでは非常に有用なものかもしれないが、命のやり取りをする戦場においてはただのおもちゃであり無用な産物といえる。


「魔法式の概要については今、説明したとおりだ。次は、魔法式の歴史を学び、その有効的な活用方法について学んでいこう。」


 こうして授業は順調に進んでいく。

 Sクラスということもあり僕たちは剣術と魔術をうまく織り交ぜた戦いを高い水準でできる生徒は多い。それでも、自分が使用している魔術について深く理解している者は決して多いわけではない。

 だが、魔術をうまく使用できているからといって、その理論を学ぶことを疎かにしていいわけではない。その違いは命を懸けた場面で大きな差として出てくると思う。

 だからこそ、これからの魔法理論の授業は真剣に取り組むべきなんだろう。自分を、そして仲間の命を守るためにも。

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