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勇者2世は世界を奔る  作者: 陽太
第一章 学院編
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第6話:勘違い

「な~んだ。そういうことね。」


 話の流れをエリスに必死で説明すると、なんとか落ち着きを取り戻してくれた。説明の甲斐があったのか、先ほどまでの怒りの色がエリスの碧眼からはもう感じられない。


「それじゃあ、なんで先輩と一緒に帰ってたの?」


 トライスが昨日の光景を思い出しながら言う。確かに、色恋沙汰でなければ、年頃の男女2人が一緒に帰ることなんてないと思うが。


「え、えっとね、、、。」


 エリスが答えに詰まる。青い目が完全に泳いでいる。


「ほら、2世。なんだか、怪しいよ。」


 僕としては、あまり深掘りするのも悪いのでそこまで詮索する気はないが、トライスは徹底的に追求するつもりらしい。


「やっぱり、彼氏なんだね。別に隠すことないじゃないか。」


 勝手に彼氏と断定し、話を進めるトライス。


「だ、だから違うって。」


 エリスは顔を赤くしながら強く否定する。


「それなら、答えられるでしょ。ほら、早く言って。」

「トライス、もうその辺でいいんじゃないか。エリスだって困っているだろ。」


 トライスを軽くたしなめる。まったく興味がないわけではないが、話したくなったときに話してくれればそれでいい。


「まあそうだね。」


 トライスも一応は引き下がった。


「い、言うよ。言わせてもらいます。」


 別にもう話は解決したのにエリスは答えようとする。彼氏疑惑をどうしても晴らしたいようだ。

 エリスはモジモジと恥ずかしそうにしている。


「あのね実はね、剣魔祭に向けて先輩と放課後から夜にかけて特訓をしてたの。」


 エリスは真実を話す。


「それは健全な特訓を?」


 トライスはエリスを茶化す。怒られても僕は知らないからな。


「・・・トライスのバカ。」


 若干の時間をおいて、言葉の意味を理解したのか赤面しながらエリスはトライスを軽く小突く。


「それにしても、なんで隠す必要があったんだい?素直に言えばよかったのに。」


 まあ確かに。別に必死になってまで隠す必要性があるようには僕には思えなかった。


「だって、急に強くなった姿を2世に見せて驚かせたかったんだもん。」


 実に可愛らしい理由だった。

 確かに、最近はエリスの付き合いが悪くなったと思っていただけに、理由が解決できて良かった。


「それじゃあ、本番ではエリスの成長した姿を楽しみにしているね。」


 可愛らしいエリスの顔を正面に捉え、言う。


「えへへ。そんなに期待しないでよ。」


 照れながらエリスは笑う。


「2世、俺たちも、うかうかしていられないね。」

「そうだね。トライス。」


 気合いを新たに大会までの短い期間を過ごすことを決意する。



 それからは他愛もない話を3人で繰り広げていたが、Sクラス担任の講師が教室に入ってきて中断となった。


「は~い、みんな座るようにね。」


 いつも通りのゆるい声が教室に響くと、生徒たちは各々自席へと着く。

 彼女はSクラス担任のマーリン。年齢は40才近いと思われるが、見た目は20代後半に見えるほどに若々しい。常に口調は優しく、ゆるい雰囲気を纏っており、生徒目線で相談にも乗っているため生徒からの信頼は厚い。余談ではあるが、控えめに言っても相当な美人であるため特に男子生徒からの人気が高い。


「それでは、今日のホームルームを始めますね。」


 教卓の前に立ち、クラス全体を見渡す。


「まずは、剣魔祭まであと1ヶ月を切りました。パチパチ。」


 嬉しそうに一人だけ拍手している。1人盛り上がっているが、生徒たちは困惑している。

 いつものことだが、マーリンはテンションが高く、なかなかに僕たちはついていけない時がある。


「それじゃあ、みんなも剣魔祭のルールはわかっているとは思うけど、いちお確認させてもらうね。まず出場者は剣術サイドと魔術サイドからそれぞれ50名ずつが選出されます。ちなみにうちのクラスからは2世くんを筆頭に計10名が選ばれました。みんな優秀で先生はうれしいです。」


 マーリンはニコニコと笑っている。

 僕たちの剣術Sクラスは45名の生徒が在籍していてそのうち10人も選出されたことになる。4年生が中心に選ばれるのが慣例となっているなかのこの数字は驚異的ともいえるかもしれない。

 ちなみに選出方法は推薦枠と実技枠の2つからなる。僕は学院からの推薦で選ばれているが、エリスを含めた大半の生徒は実技枠から選ばれた。

 マーリンは話を続ける。


「試合方法は互いに30メートルほど離れたところから始まります。魔術サイドの生徒に関してはハンデとして30秒間の魔術構築の時間が与えられます。そして、それを待ってから試合が開始されます。」


 一見すると不思議なルールかもしれないが、これが実は非常にいいバランスをもたらしている。

 剣術師の特徴としては近接戦闘に関しては無類の強さを誇るがその一方で、いったん相手から距離を取られると途端に決め手に欠いてしまう。逆に、魔術師に関しては、遠距離からの攻撃を主体としており近接戦闘には不慣れなところがある。つまり、剣術師と魔術師はそれぞれが得意とする射程が異なっている。

 そして、例えば同じ実力を有する剣術師と魔術師の生徒がいたとしたら、試合開始とともに剣術師の生徒が距離をつめ魔術が構築される前に簡単に勝負がついてしまう。

 これはあまりにも不公平であるため、互いの得意な距離を考慮した結果として、魔術側には魔術構築の時間が与えられることになった。


「勝敗に関しては、自ら負けを認めるか又は講師側で危険と判断した場合の2通りになります。みんな負けたくないからって意固地になって無理に戦い続けないようにね。一応試合前には、両者にプロテクションの魔術が付与されるとはいえ、先生はみんなの体が一番大事だから。」


 マーリンは今回出場する生徒一人一人の顔を心配そうに見る。生徒思いな先生であるし、そんな先生の願いはできるだけ叶えたいとは思う。

 だが、この剣魔祭において無理をせずに戦おうと考える生徒は誰一人としていないだろう。僕自身、この大会である程度負傷することは予想ができている。だからこそ、この先生の願いは僕には叶えられそうにない。


「あっ、もうこんな時間。続きは午後のホームルームのときに話します。それじゃあ、午前のカリキュラムの準備をしてね。みんな、今日もファイトだよ。」


 無垢な笑顔を教室中にばらまき、教室を後にするマーリンであった。

 ほんと毎日元気な人だなと内心感心してしまう僕であった。

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