第2話:王立学院
北帝オルキウス戦から遡ることおよそ1年前、僕はとある王立学院に在籍していた。
そこで起きた出来事から僕の物語は始まる。
「2世、起きてるの?そろそろ、修練する時間だよ?」
いつもと同じ時間に彼女は今日もやってきた。
ここは、中央都市アリアスの中心部に建てられている王立学院ゼセリアである。
アリアスはこの世界の中心にある都市ということもあり、ヒト・モノともに多様にあふれかえってているため、ここでの生活に飽きることはない。
毎日なんらかの騒ぎが起きているような場所であり1日中活気に満ち溢れている。
そして、この王立学院ゼセリアは剣術と魔術を学ぶことに関しては世界有数の学院であり、それこそ世界中から優秀な学生たちがこの都市に集ってくる。
本来であればこの学院に入学するのには相当な才能と努力が必要になってくる。
だが、僕の場合は勇者の子供という特権を使ってか、はたまた使わされてかこの学院に自動的に入学させられた。
特に志望していたわけではないが、なぜか僕のもとに入学証明書が届いたのであった。
断ろうとも思ったが、周囲の人たちに流され今こうして在籍しているに至る。
ゆえに、入学当初は肩身が狭かったものだ。
こんな過程で入学したせいか僕の存在をよく思わない人たちが一定数いるし、彼らの言い分もよくわかる。
だが、この学院に来たからには共に切磋琢磨し高みを目指したいと個人的には思っていたりする。
「ねえ、聞いてるの?」
返事もなく、待ちきれなくなったのか彼女はドアを勢いよく開ける。
「もう、起きてるなら返事くらいしてほしいものなんだけど?心配しちゃったじゃない。」
そういう彼女は同級生のエリス・アクティナスである。
背丈は僕よりも少し小柄であり、軽くウェーブのかかった金髪のショートヘアが窓から吹く風にわずかに揺れている。
碧みがかった綺麗な目が心配そうに僕を見つめている。
その端正な顔立ちはまるで西洋の人形を彷彿とさせるほどだ。
「ごめん、ごめん。少し考え事をしていてね。」
軽く謝意を表し、腰かけていたベットから立ち上がる。
ちなみにここは学院の寮であり、僕の一人部屋でもある。
そして、男子寮でもある。
女性は本来立ち入り禁止のはずなのだがエリスには関係ないらしい。
初めのうちはそれとなく注意していたが、「え?ダメなの?」と捨てられた子猫のような顔をされてしまい僕もそれほど強くは言えない。
「それじゃ、行こうか。今日もよろしくね、エリス。」
「うん。よろしくね。」
愛刀を腰に添え、僕たちは部屋を後にする。
今から向かう先は修練場であり、最近は毎日通っている。
初めに言ったようにここは剣術と魔術を学ぶ場所である。
カリキュラムの流れを軽く説明すると、まず入学時に剣術の専攻と魔術の専攻のクラスに別れてから、この学院での4年間の生活が始まる。
ちなみに僕たちは剣術のクラスに所属している。
僕自身、魔力量自体は平均値であったし父親譲りの身体能力の高さがあったため迷うことなく剣術のクラスの道を選んだ。
初めの1年次こそ共通科目を学ぶためそれぞれのクラスにおいて差異はないが、2年次以降はそれぞれの専攻を深く学ぶことになるため学習要領は大きく分岐している。
そして、僕たちは3学年の代であり、今は主に剣術における魔術的要素の取り入れとその活用方法について学習しているが、それももう大詰めにきている。
そして、その集大成の舞台がおよそ半年後に準備されており、いまはそれに向けた特訓の真っただ中にいる。
「今年の剣魔祭は楽しみだね。」
エリスは本当に楽しそうに語りかけてくる。
「いや、僕は勇者の子供としてのプレッシャーのほうが大きいよ。とても大会なんて楽しんでいる余裕なんてあるかどうか…。」
世界中が期待しているような活躍をこの大会でできるのかその不安との戦いがつい顔に出てしまう。
もし情けない姿を見せて世界中の人たちを失望させてしまったらどうしようかなんて考えが浮かんでは頭から離れない。
「君なら大丈夫だよ。だって、私がついているんだから。」
金髪を少し傾け僕の顔を笑顔でのぞき込んでくる。
その屈託なき笑顔、僕のことを心の底から信頼している笑顔に思わずドキっとしてしまう。
彼女ことは出会った当初から気にはなっていたものの特になんの進展もないまま2年も過ぎてしまった。
手を握れそうで握れないその距離感のまま今日もまた僕たちの足音が空に響く。