めんどいなこのちきうじん
きょうもきょうとてちきうはまわる
私は優柔が不断なのではない。
ただ、あまりこだわりがないだけ。
モノでも、人でも、そして、食でも。
ちょっとカッコつけて言ってみた。
「地球人、我らの質問の答えを聞きたい」
今、私の前にいるのは、いわゆる宇宙人というやつらしい。彼らは何の前触れもなく、この星に来た。そして、地球を滅ぼすという。私たち人類が、将来、彼らの脅威になるというのが、彼らの主張だ。なんでそんなことがわかるのかというと、なにやらすごいコンピューターが、なにやらすごい計算をして、なにやらすごいお告げをしたからなんだそうな。
あまり勉強ができない私にはさっぱり理解できなかった。
コンピューターのお告げに従って、彼らはがんばって地球くんだりに来たそうな。
「まだか、地球人」
宇宙人は私に聞く。
なにやらすごいコンピューターには慈悲の心があるらしく、私たちにしばしの猶予をくれたんだってさ。
最後の晩餐。
彼らは私たちの言葉を借りて、そう言った。
ようは、最後に何が食べたい? って、ただそれだけのことなんだけど。
もう一度言おう。
私は優柔が不断なのではない。
ただ、あまりこだわりがないだけ。
これけっこうイケんじゃね?
だから、とりあえず、彼らが私にした質問には、私を困らせるには充分なわけで。
「困りました」
「何が困るのかね」
普通はそれは困るもんだし。
食べたらすべてが終わるという話でしょ。私がごちそうさまをした瞬間に、地球は滅ぶじゃん。それがわかっていて困らない人はたぶんいないだろう。私一人が終わるならまだしも、隣のきりちゃんや、三丁目公園にいるにゃーちゃんや、先月子供が生まれた従姉の香奈さんや、たぶんそういう幸せっぽい人たちを巻き込んでしまうのだから、気が引けるっしょ。
それくらいわからない宇宙人ではないだろうに。コンピューターに聞いてみればいいのに。
「じゃあ、お寿司でおねがいします」
どうせ言わなければならないし、このやりとりもだいぶ時間がかかっちゃってる。根負けした形で、とりあえず、なんとなく言ってみた。
別にお寿司が食べたいわけじゃない。お寿司が頭に浮かんだのだ。お腹が減っただけなのだ。
しばらく私は待たされた。ここがどこだかはわからない。わかったところで私にはどうしようもない。科学技術の差は見るからに開きまくっている。彼らから見れば、私なんて原始人そのもなんだろう。ウッキッキ? うほうほ。そう、ウホウホだ。
「これが寿司か」
空間に出された画像には、回転寿司の映像が流れてた。そうじゃないだろう。コンピューターはポンコツなのかな。
「違います。形態が違います」
そうしてしばらくしたら別の画像が現れた。今度は一人前の寿司が現れた。タコ、イカ、イクラ、マグロ、タイ、卵焼き、アナゴ、サーモン、マグロ、エビ。
気に入らない。
「ウニがありません」
またいなくなった。融通が利かないらしい。どうしたものかと考える。だけど、私はそんなに頭がいいほうではない。どんくさいと親に言われたりする。だから、地球を救える手立てなんて思いつくはずがなかった。
また画像が出て来た。こんどこそ、ウニが入っていた。
でも、まずいウニだったらやだな。
私は港街育ちなのだ。ウニはちいさいときに、海に潜っては取って食べていたのだ。もちろん、海女のおばちゃんたちにはオッケーはもらっている。海の猿みたいだと笑われたっけ。こっちは間違いなくウッキッキだ。海に猿っているのかな。
「これでいいんだな」
「ウニがまずかったらやです」
宇宙人の表情は変わらない。宇宙人は地球人とおなじなんですね、とうっかり話してしまったら、きちんと、律義に説明してくれた。宇宙人の姿形は教えてくれなかったけど、この姿は地球人を模して作った画像なんだって。眼鏡をかけたお兄さんとおじさんの中間の人を選んだセンスはわからない。タイプだったからいいけど。ただちょっと歳が遠いかなぁ。
「これが寿司だ」
私の前に寿司が出されてきた。
ゲタの上に一人前が鎮座している。ゲタっていうのはお寿司がのってるお皿みたいなやつ。鼻緒がついてない下駄だからゲタ。
画像にあったのと違うのは、マグロが一貫に減って、ウニに変身しているところだ。
「最後の晩餐だ。食え」
冷たい。寿司のほうじゃない。宇宙人のほうがだ。ちょっとイラってする。お腹が減ってるのもあるけれど。
「ありません」
目を逸らしながら、私は言う。
「ウニはある。君から見て上段の右から二番目だ」
律義に位置まで教えてくれる。
「違います。醤油がありません」
また宇宙人が消える。
そうしてなんどもそんな変なやり取りを、私たちは繰り返した。もう少し下調べをするべきじゃないのかなと、足りない頭で考えてもみるけど、どうしようもない。
醤油の小皿がない、ガリがない、箸がない、お手拭きがない。
何度も繰り返すのが嫌がらせのように見えるけど、最後の晩餐なのだがら、これくらいの常識的な要求は許されてもいいでしょ。
でも、お手拭きを待っている間に、私はエビを食べてしまった。うん、おいしい。
お腹が減ってたんだからしょうがない。待たせすぎなのが悪いのだ。
「食ったのか、地球人」
「待たせるのが悪い。まだなの? 宇宙人」
ちょっと嫌味っぽくいってみる。表情を変えずに、宇宙人がいなくなった。
すぐにお手拭きが出て来た。
だが、私はそんな気分ではすでになくなっていた。
「やっぱり最後の晩餐は、アユの塩焼きとお味噌汁がいい。白いご飯もつけてね」
また言っておこう。
私は優柔が不断なのではない。
ただ、あまりこだわりがないだけだ。
ふふ、慣れて来たぞい。
宇宙人、じゃなくって、宇宙人が考えた地球人の画像、が消えた。どうでもいいから宇宙人でいいや。
待っている間、これがたまらなく暇になってきた。緊張がほぐれて来たのか、あきらめやふんぎりがついたのかはわからないけど。
「これ、もったいないから、だれか食べちゃってよ」
すると寿司が消えた。どういう技術かはわからない。ぱっと出てくるし、ぱっとなくなっちゃう。便利だなぁ。嫌いなグリンピースを消すために欲しい技術だ。
エビだけじゃなくて、玉子も食べればよかったな。
「アーユ、アーユ、アーユッユッユ! あの子もこの子一緒に、アーユッユッユ!」
下手な歌を歌いながら待つ。
海育ちの私にとって、山の魚は珍しい。アユはおいしい魚だ。楽しみになってきた。
だけど、最後の晩餐にするかというと、どうにも違う気がしてきた。ぱっと思いつくものがないのだ。どれもこれも、食べ物がおいしいから悪いのだ。
ごめんなさい、おじい。『何かあったら、まず、自分が何か悪かったのではないかと疑って見なさい』だっけ。
ごめんなさい、おじい。引っ込んでて。
宇宙人がやってきた。
今度はお箸、お手拭きがきちんとついてきた。
「でもなんで、ガリ、がついてんの」
「いらないのか」
「合わないんですけど」
「そうか」
「変更。牛タンにする」
そしてまた宇宙人が消える。
「誰か食べちゃってよ」
アユ定食ガリ付きが消える。
何だか知らないけど、すんごいコンピューターに頼めばいいのに。妙に、融通が利かない感じがする。指定したごはんをきっちり揃えてくるんだもん、有能なのは間違いないよね。
でも、ガリつけてきたりするし、学習する方針っていうのかな、それが微妙。
なんだか疲れてきちゃった。
椅子以外ない場所だから、とりあえず床でいいや。汚れてるように見えないし、横になって寝よ。
こうして私の変な夢は終わりを告げた。
これが昨日の私の夢の内容。通学中にきりちゃんに話したら大爆笑してくれた。
「変っしょー?」
「それなー」
「あ、きりちゃん、一限なにー?」
「英語だよー」
「やっべ。今日小テストじゃね?」
「勉強してないな」
「やだぁ」
『速報をお伝えします。昨日、宇宙人が示した地球殲滅宣告は取り消されました。宇宙人たちは通商条約の締結を求めています。タコ、イカ、イクラ、マグロ、タイ、卵焼き、アナゴ、サーモン、マグロ、エビ、おいしいものに限るウニがある一人前の寿司。アユの塩焼きとお味噌汁、白いご飯。牛タン。そして、ガリ、を交換条件に求めています』
『ガリ? 殲滅から一転……なんででしょうね?』
『さぁ……』




