第五話
「本日は練習試合を行う
他校との試合の敗けを何時までも引きずるな、これで払拭しろ
気合いを入れて行けよ」
放課後の体育館、練習をしようと準備をしていた剣道部員逹の前に顧問が現れ何の前触れもなくそういうと直ぐに消えてしまった。気合いと言った割に疲れ切って張りのない声、また仕事溜め込んだなあの先生と部員の間が同情一色で染まる。顧問の監視が今日は無し、それが分かったので部員逹の大半はお喋りをしながら遊びに行く為の服を着るように防具を身に付け始めた、先生、負けたことを引きずってる人はそこまでいませんよ。
準備を終えた六三四は部長の御久古に貫城さんが用事で部活には参加ないことを告げると、うちの部で見学したって飽きるよねと事情を汲んで顧問に何か聞かれたらそう答えると事情を汲んだ返事をしてくれた。
「六三四、今日の相手は俺だ」
部長と別れ対戦の組み合わせが書かれたホワイトボードの側まで行くと、六三四は肩を強く叩かれ振り返るとそこには一年上の長と別れ対戦の組み合わせが書かれたホワイトボードの側まで行くと、六三四は肩を強く叩かれ振り返るとそこには一年上の」
部長と別れ対戦の組み合わせが書かれたホワイトボードの側まで行くと、六三四は肩を強く叩かれ振り返るとそこには一年上の先輩、井上の顔があった。
「私ですか?
他のレギュラー人の方がよくないですか」
反射的に一歩後退りする、六三四の苦手な先輩だ。将来は役者になりたいという理由からいつも男性的な口調や行動をしている。友達でもないのに友達のように接してくる、六三四が一番避けたい人であった。
いつも練習試合では部長と試合をしている人なのに今日はどうしたのだろう?
「お前、最近調子に乗って来てるみたいだな
あの時都と試合して何か掴んだのか、それとも」
井上が顔を近づけジロリと睨んだ。
「隠れてお母さんの知り合いにでも弟子入りしたのかな?」
六三四の心臓がドキリと跳ねた。
武蔵からのアドバイスを取り入れ良くなった動きを目聡く見抜かれたのだろう。半分は勘違いですと言いたいが、深く突っ込まれて黒猫に教わってますなどとは言えない。そんなことを言えば馬鹿にされてた思われて、今以上に絡まれることは明らかであった。
六三四の母が剣道の世界では昔は名の通った人であった事は、剣道部内では入部当初後直ぐに全員へと広まっていった。当時は有名選手から手解きを受けた者として期待されていたが、本人の実力が知れ渡ると出来の悪い娘、指導者失格の元有名選手という評価に収まっていった。
井上はその時、陰で色々言ってきた人間の一人であった。
くやしかったが、実力が無い以上何を言っても説得力に欠け、覆すことはできなかったのである。
見かねた親が哀れな我が子にコネと金を使って先生を付けたのだろう、井上はそう思ったに違いない。彼女は剣道をやることを両親から快く思われていないとよく漏らしている。私の境遇に嫉妬するのは分かるが、打倒してそんな努力は無駄だとマウントを取られるのは止めてほしい。
「こら!後輩をいじめない」
見かねた御久古部長が割って入って来た。
粗暴を演じる井上と風見鶏のように捉えどころのない御久古部長は正反対の性格、しかし互いに反発するどころか、二人は何故か親友という間柄であった。
親友で部長、この人なら助けてくれるかも。
だが六三四の期待通りとはならず、井上は御久古の言うことに聞く耳を持つことは無く、竹刀は当てない必ず寸止めにするからとしつこく食い下がった。
「手加減なんてあんたにできる分けないでしょう」
何度目かのやり取りで部長が声をあらげた。相手の頑なな態度に少し頭に血が上ったのだろう、それは逆効果ですよ。六三四の予想通り井上の目が面越しにはっきりと分かる程つり上がり、次の瞬間手から下げた竹刀を六三四目掛けて振り上げた。
ぶつかる、六三四はそう思った、しかし竹刀は体の一つ空いた空間を斜めに斬って止まった。
あ、あれ?
もしかして、怒った振り? からかわれたの私?
六三四は井上の顔を見ると、信じられないと言った表情で固まってた、隣の御久古部長も同様。周囲を見渡すとこちらを遠巻きに見ていた部員逹の大半が似た表情をしてた。
「何だ今の?」
井上が怒気を孕ん声を上げた。
「き、急に竹刀が飛んで来たんで逃げました、はい、ごめんなさい!」
被害者である事も忘れて六三四は頭を下げてあやまった。
あ、私、今の一撃がはっきり見えてかわしたんだ。
皆の視線が視界から消え自分が何をしたのかを冷静に思い出して、六三四は驚きで額に汗が浮かんだ。
奇襲だよね今の、なのにどうして見えてたの私、どうしてかわせたの私。
訳がわからないが何時までも頭を下げている分けにはいかない、顔を上げるとひきつった顔の井上が「逃げるなよ」と言って離れて行くのが見えた。
「手加減してあげてね」
助けを期待していた御久古部長は、そう言うと六三四の肩に手を置いて他の部員の元へと去っていった。
部長さんありがとう、最後には相手の肩を持ったみたいだけどね。
「あのみなさん、レギュラー相手に補欠未満私で相手になるのでしょうか?」
周囲に助けを求めるも、全員が視線を合わせよするとそそくさと離れて行ってしまった、薄情過ぎませんか皆さま。
その後、六三四は抵抗するも相手が井上から変わることはなかった。
「一本!」
鋭い打ち込みが面を打つ、離れた所で立ち審判を勤めていた御久古部長がすかさず大きな声で判定を告げた。竹刀を交えていた二人は距離を取り一礼をすると、周囲を取り囲む他の部員逹の中に戻っていった。どちらの背中からも勝った喜びも負けた悔しさも感じられなかった、言われて仕方無くやっている、そんな惰性と倦怠感が辺りには漂っていた。
体育館の片隅、剣道部に割り当てられたスペースで練習試合は始まり、既に十数分が経過していた。内申点の為と割りきってやっている部長だが、その手際は鮮やかで試合は何事も無く進んでいく。六三四はそれを自分の出番を待つ他の部員逹の中でぼんやりと眺めていた、視界の箸でこちらに向かって敵意の籠った視線を向けてくる井上の存在を無視ながら。
う、うぅ~、助けて、貫城さん。
生きた心地のしないまま試合は進み、やがて部長が自分を呼ぶ声が聞こえ六三四は上擦った声を上げて応えた。
六三四がまばらな人垣から前に出ると小さな笑いが起こった、はいはい、変な声が出てしまいましたよ。
しかし、次に名前を呼ばれた井上が反対側から前に出ると周囲は静まり返った。
みんな井上が怖いのだ、部員の殆どが余り練習のキツくない部として選んだ剣道部、そこで変に熱い人間に絡まれたくはないのだ。
「逃げてもいいんだぜ」
互いに顔を会わせると井上が挑発をしてきたが、それに上手く応えられる程、六三四の語呂は多くはなかった。
「よろしくお願いします、先輩」
迷った末、テンプレートで返したが無視されたと思った井上が舌打ちをした。
「井上、その態度続けるなら失格にするよ」
御久古部長が近づき割っては入ってくれた、井上は分かった分かったとめんどくさそうに手を振って応えた。
御久古は溜め息をついて離れていく。
「天狗の鼻は一度は折れとかないと、よろしくね」
六三四に近づくとそう耳打ちしてきたが、アドバイスだろうなのかどうか分からない言葉を残していった。
「何だ、俺の弱点でも教えたのか!?」
「あんた、弱点しかないでしょう
それ以上絡むなら大声で皆に言うけど」
御久古は絡む井上を軽くいなすと元の位置に立ち、2人に準備をするよう促した。
正面の井上が竹刀を構えその切っ先がこちらに向けられる、六三四は恐怖で体育館の酸素が薄くなったような錯覚に陥ってしまった。
怖い、恐怖で体が強張り竹刀を持っている手が震える。逃げたい気持ちを抑え竹刀をゆっくりと持ち上げ、井上に向かって向ける。あれ? 井上と自分の間に竹刀の切っ先が割って入のが確認すると、圧迫感が消え呼吸が楽になった。
「始め!」
突然、御久古の声が耳に飛びい気持ちを抑え竹刀をゆっくりと持ち上げ、井上に向かって向ける。あれ? 井上と自分の間に竹刀の切っ先が割って入のが確認すると、圧迫感が消え呼吸が楽になった。
「始め!」
突然、御久古の声が耳に飛びえ竹刀をゆっくりと持ち上げ、井上に向かって向ける。あれ? 井上と自分の間に竹刀の切っ先が割って入のが確認すると、圧迫感が消え呼吸が楽になった。
「始め!」
突然、御久古の声が耳に飛び刀をゆっくりと持ち上げ、井上に向かって向ける。あれ? 井上と自分の間に竹刀の切っ先が割って入のが確認すると、圧迫感が消え呼吸が楽になった。
「始め!」
突然、御久古の声が耳に飛びって向ける。あれ? 井上と自分の間に竹刀の切っ先が割って入のが確認すると、圧迫感が消え呼吸が楽になった。
「始め!」
突然、御久古の声が耳に飛びける。あれ? 井上と自分の間に竹刀の切っ先が割って入のが確認すると、圧迫感が消え呼吸が楽になった。
「始め!」
突然、御久古の声が耳に飛び井上と自分の間に竹刀の切っ先が割って入のが確認すると、圧迫感が消え呼吸が楽になった。
「始め!」
突然、御久古の声が耳に飛びが楽になった。
「始め!」
突然、御久古の声が耳に飛び待ってましたとばかりに手綱から解かれた猛犬のようにこちらに向かって一気に踏み込んで来た。
「面! これで一本!」
井上の竹刀が前進しながら正眼の構えから上段へと移動、そして一気に振り下ろされた。
打たれる、六三四はその後に頭に来る衝撃を予想して目を閉じようとしたが、目は迫る竹刀の切っ先を捉えて離さずそれを拒否。
あれ、遅い?
六三四は体を横へと逸らす、竹刀が今いた空間を通り過ぎのを横目に前のめりになった井上の顔が隙だらけなのに気づいた。
パン!
急に獲物が消え行き場を失った井上の竹刀が床を打ちった、それと同時に六三四の竹刀が井上の面を打った。
六三四の手から防具の頂点を打ち据えた感触が脳に伝わるも、自身が見た光景を信じられない六三四はそのまま固まってしまった。
井上の動きが全て見えた、以前御久古と試合している姿を見た時は追うことができなかった筈なのに。
手加減されたのかな?
井上が顔を上げる、面の金具越しに怒りに燃える瞳が二つ、はっきりと確認できた。
「面を打つ時は口で言わないと一本にならないわよ」
御久古部長に言われて、無言で打ち込んでいたことに六三四は初めて気づいた。
「ご、ごめんなさい!」
六三四は反射的に謝罪の言葉を口にすると、急いで井上から離れた。有効打とはならない攻撃をしたのだ、仕切り直しなので試合開始前の位置に戻らなければならい。失敗しちゃった、他の部員たちはまた馬鹿にするだろう。
顔を伏せ気味に周囲を見渡す、今の遣り取りを見ていた部員たちは近くにいる人同士でヒソヒソと何やら話し合っている。
笑い合っている様子ではない、今起こったことについて意見を言い合っているように見えた。
「今のは声が有っても一本じゃない!
早く仕切り直せ、御久古」
井上が怒鳴り声を上げた、ざわついていた周囲が水を打ったように静まり返る、その向こう側で練習をしていたバスケ部やバドミントン部の部員たちも動きを止めこちらを伺っている始末。
「はいはい、今度は叩かれないように本気でやろうか、井上選手」
そんな中、一人自分のペースを崩さずに熱くなった部員を窘める御久古部長、井上は拳を握りしめると渋々といった様子で試合開始時に立っていた場所へと移動する。
何かが可笑しい、自分と世界が決定的にずれてしまったような違和感が胸に残って気分が悪い。
馴れない井上さんとの試合で緊張しているのか、それともわざと隙を晒して打ち込ませてからかわれているのか、御久古もこの一件に一枚咬んでいるのだろうか?
嫌な妄想が頭の中をぐるぐると回り思考がかき乱されるが、御久古部長は構わず試合開始を告げた。
井上は始めと同時に踏み込んできた、速い、面への打ち込みを防ぐと両手が僅かに痺れた、威力も増している。
六三四も隙を見ては打ち込むが竹刀で弾かれ、体勢が崩れかかった所へ一撃が飛んで来て防戦一方へ逆戻りとなってしまう。
見えているのに体が反応してくれない、蒸れて不快感が増した面の中で荒い息が漏れる。
いっそのこと負けてしまおうか、そうは思っても井上の攻撃は六三四のを打つも、声をわざとずらして有効打にはならない。
「次、声がずれたら井上は失格で六三四の勝ちだよ」
オクコ部長が仕切り直しと最後通告を告げる、井上は素直に従う、どうやら機嫌は直ったようだ。
何度目かの試合再開、井上は動いた六三四は動かない、敗けでいいと諦めたのだ。
目の前に井上の竹刀が迫る、六三四は目を閉じよとした。
シャー!
その時、低い唸り声が体育館に小さく響くと黒い塊が井上の面に飛び付いた。井上は予想外の出来事に勢いよく横転、黒い塊は面にしがみついて寄生を上げ一人と一つは床の上で揉み合う。オクコ部長も周囲の部員も異常な光景に動けない、ただ一人六三四だけは状況を瞬時に理解できた故に棒立ちだった。
武蔵さん、何で学校に来たの!
軽いパニックに陥った六三四がようやく一歩前に出ると、井上に弾き飛ばされた黒猫が足元に転がった。
「俺に恨みでもあるのか、このネコー!」
井上は弾かれように立ち上がると竹刀を片手に黒猫を叩こうとする、六三四は竹刀を捨てると武蔵を抱き上げて腕で隠す。
「ね、ねこさ~ん、よしよし
私たちは部活の途中ですから、お外で遊びましょうね」
赤ちゃんをあやすように武蔵の頭を軽く撫でると、そのまま小走りで体育館の入り口へ急いで向かう。猫を飼い始めた事は貫城以外に言ってはおらず、この黒猫が六三四の飼い猫であることはこの場に居る誰も知らない。武蔵がこのまで人の言葉を喋れば大問題、もし動画にでもその姿を残されネットにアップされたら武蔵を誰かが捕まえて最悪解剖するかもしれない、幾ら迷惑な同居人でもそうなってしまうのは余りに可哀想である。
「どうして学校に来たの!?
私の他に弟子になる子を探しにきたの?」
腕の中で背伸びをして面に顔を近づけた武蔵を叱る、どうやって家を出たのか聞きたいところだが今は外に出さなければ、このままここに置いては弟子2号を探すための辻斬りごっこをやりはじめかねない。
「お前以外弟子にする気はない
隠れて社会見学に来が見ていられなかったんで助言に来た」
助言って、あれは加勢というのではないですか?
つっこみを入れようとしたが、近くにバスケ部員が居たので何も言えなかった。
「自分の感情を見るな、相手の姿と双方の竹刀だけを見ろ」
「そ、そんな、こと言われても」
体育館を横切り入り口に着いた所で武蔵からの助言が耳に入って来たが、六三四には上手く理解できなかった。
「動きが見えている相手に何を恐れる、お前のことだどうせ目上の人間を倒せば嫌われるとでも思っているのだろう」
練習試合が決まった所から武蔵は何処かで見ていたのだろう、武蔵の状況判断は的確で六三四の胸の底に沈み自分でも気付かなかった感情を白日の元に晒した。
井上さんは苦手で勝ち負け以前に関わりたくないという感情が強かった。
もし勝ったらとも頭の隅で考えてしまい、その結果今まで以上に絡まれると予想に至り、何処かで負けてしまおうと萎縮し防戦一方を知らず知らずに選んでいた自分に六三四は気付いた。
「本気でやれ、本気のお前は好かれようが嫌われようが強い
この場に居るだれよりもな」
武蔵はそう小さく耳打ちすると、立ち尽くす六三四の腕の中で暴れ外に出たい野良猫を演じて入り口から外へ駆け出して直ぐに視界から消えてしまった。
「私が強い、誰よりも?」
武蔵が残した言葉を一人反芻する、武蔵は猫の本能に負けイタズラをすることはあっても、悪意のある嘘を言ったことは一度もない。まさかね、とは思うが相手は幾つもの戦いを潜り抜けた武士、そうだ武士なのだ彼は。一対一の戦いに割って入ったのだ、弟子にしようとしている人間が恐怖から負けようとしていたのを止める為に、決闘に等しい戦いに割って入ったのだ、武士としての何かをきっとねじ曲げたのだろう。
武蔵は拳を握りしめた、黒猫が消えた場所へ向かってありがとうと胸の中で呟いた