崖っぷちでジグソーパズルと愛を語る。
「マズいマズいマズいやろコレコレコレわさぁ」
ハスキーボイスを新幹線並みの速さで放つ逆三角形目のおっちゃんが目をギロッと輝かせながら、鏡をギロッと見つめながら、その鏡から自分のたった一本の髪の毛を見つめながら、
「マズいマズいマズいやろコレコレコレわさぁ」
と言った。それもそのはず、
この一本が抜ければ、おっちゃんの髪の毛は全滅してしまうからだ。
一年前のあの日までは、同年代のおっちゃんたちの憧れの的な存在一位だったおっちゃんの髪の毛。
今では「なりたくない」髪型ダントツの一位である。髪型かどうかも疑問なくらいに。
そのため、おっちゃんは自分をこんな髪にしたアイツを憎んでいたのかというと実はそうでもなく。
「あれはしょうがないことだ」と言って別段気にもかけていないと言っていた。
しかしやはり、髪には気をかけないといけなかった。
シャンプーをするときなど、引っ張りすぎて髪を引っこ抜かないようにと、試行錯誤した挙げ句に結局シャンプーをしなくなったり、外部からの頭部への攻撃に備えるために黄色いヘルメットを被ったり、あとなんか色々してた。
しかしそれも、空しい結果に終わる。
おっちゃんが世界一キレイな夕焼けが拝めるという崖のふちで、芋焼酎を片手にジグソーパズルをやっていたときのことだ。
おっちゃんがパズルのピースの一つを崖の下の海に落としてしまい、それを拾いに海に身を投げて死んだ。
残ったパズルも風に乗って舞い落ちた。
その時におっちゃんがやっていたパズルはホワイトパズル。
おっちゃんはそれに「コトバ」を書いた。
「ああ、バーコード〜」