無限大剣
あれから数分の斬り合いをしていた。
お互いに致命的な攻撃は与えておらず、俺の魔力も少なくなりジリ貧になっている。本格的にまずい。
「てやあああああああ!!」
「ぐっ…………! 効かねェ!!」
今フォボスと剣を交えているのはフォトだ。フォボスも、同じようにアーマーが削られジリ貧状態だ。
そこに、今か今かとヴァリサさんが様子をうかがっている。
「ヴァリサさん。エクストラスキルって今から使えたりする?」
確か、ヴァリサさんのエクストラスキルは斬撃系だったはずだ。
破壊力を極めたそれは、俺の『アルティメットキャノン』の威力を瞬間的に超えるだろう。
「! うん、できるけど。確実に当てないと倒せないんじゃないかな」
「じゃあそれで。今から二人で攻めて、全力で隙を作る」
「分かった。任せる」
フォトがフォボスの剣を弾くよりも前に、俺は横からフォボスを斬りつける。当然避けられてしまったが、フォボスの体勢は崩れた。今だ! と再び斬りかかる。
防御を中心とした戦術に変わったフォボス。今ならば無理やり隙を作るのに丁度いい。
「フォト! 二人で攻めるぞ!」
「……! はい!」
俺の言葉に、フォトは覚悟を決めたように拳を握った。
フォトは『神速』を使い、俺は正面から斬りかかる。先程まで一人ずつ相手をしていたので、フォボスは避けるだけでなく剣で受けるといった防御方法を採用し始める。
しかし、俺とフォトが同時に攻めてダメージを与えられないなんて。どんだけ高性能なんだそのアーマー。
「ヒャハハハ! そうだ! こうでなくちゃなァ!!!」
「せええええええええええええええい!!!」
俺のどの攻撃も躱していたフォボスだったが、フォトの『神速』への反応は遅れるようで、剣で弾いていた。
フォトと俺の違い…………聖なる光か。魔族を弱らせる光。それによりフォボスは一瞬反応が遅れる。そのおかげで、俺もフォボスに攻撃をしやすくなっていた。次第に俺の攻撃も剣で受けるようになる。
「チッ、この速度、光、クソ厄介だぜ…………!」
「今だ! 『ウォーターシュート』! 『ウォーターバインド』!」
俺の『ウォーターシュート』がフォボスに飛んでいく。
『ウォーターシュート』は魔弾の水属性バージョンだ。ただ、それだけ。特別な威力はない。ただの魔弾。
それと同時に『ウォーターバインド』もフォボスを襲う。二つとも水のスキル。
「うおっ!? ちぃ、んなもん効くかよ!」
当然、放たれた二つの水はダメージにもならない。フォボスは避けるよりも体に当てて消滅させた方が効率がいいと判断したのか、『ウォーターシュート』と『ウォーターバインド』をガードしなかった。
『ウォーターシュート』はただの水と同じように飛び散り、『ウォーターバインド』は元の性質である手足を水で拘束する、といった動きに従い一瞬だけ手足に纏まった。
が、ダイモスアーマーの前では無力。無効化されてしまう。
「そこから動くなよ! 『アイスバインド』!!!」
「なにィ!?」
『アイスバインド』が俺のフロストソードを通して放たれた。
ただの『アイスバインド』では、放たれて着弾するまで束縛する氷は展開しない。
だが、周りが、手足が濡れている今ならどうだろうか。
放たれた『アイスバインド』は異常なほどの冷気を内包している。フロストソードの効果だ。
それに加えて、『ウォーターシュート』と『ウォーターバインド』により濡れた手足と地面が瞬間的に凍っていく。
まず足を、氷が覆った。そして次に手を。フォトが作った時間を利用することにより可能になった合体スキルだ。
「チッ、この程度…………!」
だがしかし。それでもフォボスは止まらない。
これだけ大規模なスキルを使っても、フォボスを拘束できたのはほんの一瞬だった。
俺はスキルによる硬直時間のせいで動くことができない。フォトはフォボスに弾き飛ばされ、すぐに距離を詰めることができない。
「ヴァリサさん!」
そう。フォトが作った隙を利用し、さらに隙を作ったのだ。
フォボスは強い。だが、実力がある者が数人相手となれば、いくら四天王のアーマーを用意したところで圧勝はできないのだ。
だから、当然隙はできる。長い戦闘をすれば尚更だ。
「『無限大剣』ッッッッッ!!!!!」
硬直する身体をゆっくり動かし、ヴァリサさんのエクストラスキルを見届ける。
高く掲げられた大剣は、元の数倍長くなっていた。天を裂くのではないか、と思うほど、無限の刃は伸び続ける。そして、大きな声と共に振り下ろされた。
「ふざけるな! オレ様が、こんな!」
「いっけええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
ずああああっと巨大な剣が振り下ろされる。その先にいたフォボスは、避けることができないと察したのか、剣で受け止めようとした。
しかし圧倒的質量を前に、剣は軽々と弾かれる。フォボスの身体を守るものは、ダイモスアーマーのみとなった。
剣が鎧を削る。信じられない、エクストラスキルを、真正面から受けてあんなに耐えるなんて。
もしかしたら、あの鎧もエクストラスキルによって作り出されたものなのかもしれない。
「やっ…………た…………?」
ダイモスアーマーが破壊されたのだろう。ヴァリサさんのエクストラスキルの発動後、辺りは黒煙に包まれた。
勝った。だというのに、俺の心には何かがつっかえていた。違和感、なんだろうか。こうも簡単にフォボスを倒せてしまったこと? 俺が、エクストラスキルを使う前に倒したこと? いや、違う。
「…………キールさん、あ、あれって」
「え?」
何かを見つけたのだろう。フォトの視線の先を見る。すると、黒煙の中に、青い光が見えた。そして、違和感の正体に気付く。
黒煙の中でゆらゆらと揺れる『炎』を見て思い出したのだ。ダイモスは、二種類の『炎』を持っていたことを。




