合流
全力で走り、火口を目指す。しばらく走ると、ヴァリサさんとフォトが見えてくる。思ったよりも進むのが遅かった。良かったのか悪かったのか。
一気に速度を上げ、近づきながら話しかける。
「おい、どうしたんだ?」
「キールさん!? な、なんですかそれ!?」
「わぁ、すごいねそれ」
何って、ああ。『魔力開放Ⅰ』のオーラか。そういえばフォトに見せるのは初めてだな。
ヴァリサさんも驚いている。体術系スキルで似たようなオーラを出す方法があったはずなので、もしかしたらヴァリサさんもできるかもな。
「スキルだ。後で説明する。それよりリュートが見えないくらい遅れてる理由はなんだ?」
「はい、実は溶岩が噴き出ていて、それを避けるのに必死で…………」
元々溢れている溶岩がさらに勢いを増し噴き出ているのだろう。前方で固まっていない溶岩がコポコポと音を鳴らしている。同じような溶岩溜まりがいくつも見られるが…………
次の瞬間、一気に溶岩が噴出した。
「おわっと!? そういうことか」
飛び散った溶岩を避けながら走る。なるほど、これは確かに遅くなるな。
フロストソードで冷やしながら進んでも、この溶岩を瞬時に止めることはできないだろう。しかし完全に固まっていない溶岩で足元が不安定になるため、なるべくフロストソードは振る。こういう時に空を飛べる奴が羨ましい。
「俺はこのままフォボスを撃破する。フォト、溶岩に触れそうになったら『マジックシールド』で防ぐように。ヴァリサさんは…………気合で避けてくれ」
「ええ…………まあ見てから避けるくらいはできるし、いいんだけどね」
「了解しました! わたしたちもすぐに向かいます!」
「おう、頼んだぞ」
そう言って二人を追い越していく。くそ、リュートは先に行っちまったか。まあ後ろの様子を確認しながら進んだりはしないからな。飛んでるし、溶岩のせいで遅れるのには気づかないだろうし。
非常事態だ、とりあえずリュートに追いついて、フォトとヴァリサさんが遅れてることを伝えなければ。
その後、フォボスをぶっ倒す。それですべてが終わるんだ。
「…………魔力、足りるか?」
自動回復では足りない気がしてきた。万全の状態で戦えるようにポーションを飲んでおこう。
俺は『倉庫』から赤色のポーションを取り出す。そして口でコルク栓を抜き、捨てた。ああー、相変わらずまずい。苦いんだよなポーションって。今の時代なら味も良くなっているのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えつつ、フォボスの元へ向かう。
* * *
山を登れば登るほど固まらない溶岩が増えていく。
道中に偉そうに名乗っていた魔族が数人いたが、『スラッシュ』で倒すことができたので多分一般兵士だろう。絶対そうだよ。うん。
いやさ、急いでんだもの。勝負したい気持ちはいっぱいなんだけどね。デュラハンが強すぎたんだ。
それにしてもリュートはどこだ、もうほぼ火口だぞ。
「炎! あそこか!」
熱を感じ空を見ると、巨大な炎が上がっていた。
あれはインフェルノのブレスだろうか。リュートが乗ってるだけあそこまで威力が上がるのか。
しかしなぜ上空に? 場所は反対側だ、戦闘中だろうか。
「なっ、止まれ貴様!」
「邪魔だあああ!!」
レッドウルフ族だろうか。炎系の技を得意とする獣人だ。
ここは通さんとばかりに曲刀を構えるそいつに『ブラスト』を放つ。流石というべきか、吹き飛ばされ倒れる、といった一般兵士のような負け方はしなかった。
「なっ!? くそ! おい待て!!」
「悪いな!」
しかしフロストソードの効果で足元が凍ったため、結局戦闘不能と変わりない結果となった。
まともに戦ったら強いんだろうな。曲刀以外にも魔法とか、スキルとかで何かしてきただろうし。
まあ、あのくらいならフォトとヴァリサさんで倒せるだろう。問題はリュートだ。フォボスを相手にしているのならまずい。両方炎なのだから。
「見えた!」
反対側まで移動すると、リュートの乗ったインフェルノと、フェニックスモドキが戦っていた。あれ、フォボスじゃないのか。
いや、問題はそこじゃない。あのフェニックス、なんだか色がおかしい。あれでは炎というよりも、マグマではないか。マグマの不死鳥か、さては火口に入って強化されたな? よし、俺も加勢しよう。
そう思ったが、俺を見つけたリュートがインフェルノに指示したのか。こちらに引いてきた。おいおい俺に押し付けんな。
たまらず俺もインフェルノに乗る。こういう時に大ジャンプができるのは便利だよな。
リュートは「うええ!? なにそれ!?」とオーラに驚いている。今更過ぎるだろう。ああ、もしかしたらジャンプ力とか、飛び乗ったこととかにも驚いてんのかな。安心しろ、お前も慣れたら同じことできるぞ。
いやいや、そんなことはどうでもいい。
「リュート、フォボスはどうした?」
「知らないよ! なんか火口まで来たらこいつがいてさ! 急に襲ってくるし! なんなんだよこいつ!」
「フェニックス……に近い存在だ」
「フェニックス…………!? で、なにそれ」
普段ならここでずっこけるのだろうが、今は必死に逃げているのでこけている場合ではない。というか飛行中のドラゴンの上でコケるとか笑えない。
「不死鳥だよ。死ぬことのない炎の鳥、永遠の炎」
「えっ!? それ勝てないじゃん」
「近い存在っつったろ? オリジナルよりは倒しやすいはずだ。本物のフェニックスだって倒せたんだから」
あれは封印だけどな。魔界の火山は魔境だからあれ。魔界の時点で魔境だわバカか俺。
「どうやって倒したんだ?」
「魔力を生み出す場所、コアだな。それを封印したんだ。魔力をぶつけて魔力を削り、コアだけにするんだ。オリジナルのフェニックスも最終的にはコアだけになったし、あれもいけるだろ」
コアになったフェニックスは再び周囲の魔力を吸収し復活する。コア自体は壊すことができないので、実質不死身というわけだ。
コアにしたら魔力を吸収できないように封印する。今思えばナイアドを拘束した吸魔の手枷に使われている素材があの封印の石だったんだろうな。
「なるほど、つまり物理は効かないってこと?」
「物理も魔力をぶつけられるなら効果はあるけど、まあ普通に攻撃するより魔法とか、そういう魔力の攻撃が効くな」
「ワタシノブレスハドウダ」
聞いてたのかインフェルノ。てっきりフェニックスが飛ばしてくる炎を避けるのに必死だと思ってた。
「もちろん効く。だが向こうも常に回復するから、少しでも攻撃の手を緩めたら相手の回復量が上回る可能性もある。攻めるなら一気にだ」
「了解シタ。デハ機会ヲ伺ウカ?」
「いんや、今から攻める。こっちも魔力が危ないんだ。本当は魔法使いとかがいた方がいいんだけどな」
当時は魔法のような術系スキルで撃破した。それも大人数の有力者が集まってな。
その中には魔法使いもいた。まあとにかく、魔力を一気にぶつける手段が必要になってくる。
「今から!? ってことは…………あれ、今から倒すってこと?」
「おう。空中戦だ。俺も飛ぶから、合図を出すまで守ってくれ」
「は? いや飛ぶってお前」
再びポーションを飲みながらフェニックスを見据える。
ふぅ、やるしかないか。まさかフェニックスが相手になるとはな。俺がフェニックスを倒すには、これしかない。
「『魔力開放Ⅱ』」




