魔力開放Ⅰ
「くっ、流石に増えてきたな」
戦闘開始から数分。数えきれない数の魔族を倒し続けた。
こちらが倒せば倒すほど、相手の数は増えていく。やはり数の暴力、襲い掛かってくる魔族に対処が遅れ始める。
「そろそろ力入れないときついぞ」
「だよね、よし。インフェルノ! 乗るよ!」
「了解シタ」
リュートは一旦インフェルノのサポートに回るようだ。
前に前に進みながら戦っているので、目の前の魔族の数が多ければ多いほど進みにくくなる。強化されたインフェルノの参戦により、その心配もなくなるだろう。業火の爪が、尻尾が、正面の魔族を一気に倒していく。
「よし、速度上げるぞ! 『菊一文字』!」
『菊一文字』の発動で冷気が飛び出す。氷の花が咲いた。見た目は美しいがその花はすぐに真っ赤に染まってしまう。
フロストソードのおかげで様々なスキルに氷属性を与えることができる。この状況にピッタリだ。
氷結四散。斬られた身体が凍結され、氷のようにゴトゴトと倒れる。
「ヒィ……!」
「恨むならフォボスを恨むんだな!」
ただの斬撃、『スラッシュ』も氷属性だ。斬られた場所から血が、肉が凍っていく。周りの気温のおかげで威力も上がっているな。
走りながら斬り伏せていく。だがこの数はキリがないな。一人を斬った時の隙を突いて一気に数人が襲い掛かってくる。
「やあああああああ!!!!」
フォトの斬撃が魔族を切り裂く。すごいな、もう魔族相手に楽々戦えている。
その隣にいるヴァリサさんも、横からくる魔族を次々不幸にしている。ああ! また不幸になった! 肉塊が増える!
「竜槍術其の四『暴れ竜』!!!」
リュートのスキルが発動する。そうか、槍を飛ばして攻撃する『暴れ竜』ならばインフェルノに乗りながら攻撃ができるのか。便利だなそれ。俺も似たことできないかな。召喚スキルもあったけど、魔力めっちゃ使うしやめとくか。
呑気にインフェルノを眺めていると、『暴れ竜』による炎が見える。おおっ、久しぶりに…………なんかでかくない? ちょちょ、でかいな! やっぱドラゴンの魔力ってすげぇわ。
「うおあちっ! え、えええ!? なにそれ!?」
「あいつも知らなかったのかよ」
この場で一番驚いているのはリュートだった。試しに使っとけよ、魔力使うの渋ったか。
俺も魔力は温存しておかないとな、自動回復が追い付かなくなってきた。少しずつではあるが減り始めている。
そうして、約一時間が経過した。
火山の中腹辺りまで走り抜けた俺たちは、このまま一気に攻めようかとさらに足を動かす。
が。
「止まれ。さもなくば心臓を刈り取るぞ」
前方の岩の上。そこに首の無い黒馬に乗った首無しの騎士がいた。漆黒の鎧に身を包んでいる。デュラハンだ。武器は真っ黒な大鎌。
強敵だ。魔王の部下であった暗黒騎士以上の実力を持った種族だからな。それとも、魔王の下にいたデュラハンだろうか。どっちでもいいか、どちらにしろ倒さなければ先に進めないのだ。
「止まるかっ!!!」
当然、止まりはしない。今止まってしまったら勢いが落ち、一般兵士である魔族に囲まれてしまう。
「なっ!? 舐めるなよ人間!」
どこまでも人を馬鹿にした態度、似ている、が。どうだろうか。デュラハンの見た目とかわかんないしなぁ、顔ないし。
声も、こもっていて判断ができない。しかしデュラハンならば共通して苦手なものがある。そう、水だ。
「『ウォーターバインド』!」
「くっ、小癪な」
俺の『ウォーターバインド』を、デュラハンは大袈裟に避ける。あれほど高位の種族であればバインドにはかからないのにだ。
「相変わらず水が苦手なんだな」
「……貴様、まさか」
「おっと、そこで黙っとけ。ちゃんとついてきてくれないと困るぞデュラハン。速度が落ちる」
デュラハンは馬に乗っているので、俺の走る速度に余裕でついてくる。ここで振り切ることはできない。
なので、全力で走りながら戦わせてもらおう。フォトたちはデュラハンの大鎌を弾く俺を見て、距離を置きながら的確に他の魔族を倒していた。邪魔になってしまうと判断したのだろう。走りながらだしな、協力は難しい。
「フフ、ハハハハハハハ!! 馬鹿め、ならば貴様の仲間を狙うだけのこと!」
「おい! そりゃ卑怯だろ!」
そりゃそうか、くっそ一旦下がるしかないか? あの大鎌はヤバい、生命力とかを吸い取ってくるんだ。
戦闘中に衰弱死、なんてことも珍しくない。呪いをいくつも持っているのでそれに対抗する術がない場合は逃げるのが一番なのだ。
フォトやヴァリサさん、上空のリュートにその術はない。ここは俺が単独で撃破する必要がある。
「リュート!! そのまま進んでくれ! すぐに追いつく!!!」
「ええっ!? マジかよくそっ! 了解!」
方向転換。背後にいる二人を守るために『神速』で逆走する。
「フンッ!」
「ううっ…………!!」
俺の手が届くよりも先に、デュラハンの大鎌がフォトを襲った。
フォトはその大鎌を剣で受けると、苦しそうに唸った。受けちまったか、せめて弾いてくれたらマシだったのに。
ギギギッと火花を散らしながら大鎌と剣が離れる。走っていてよかった、もし止まって受けていたらもっと多くの生命力を奪われていた。
「剣で受けるな! 生命力を吸い取られるぞ! 二人は先に行け!!」
「……はいっ!」
「なんだか知らないけど、あたしじゃ敵わないみたいだねぇ!」
水ほどではないが、氷も効果があるようだ。斬撃により、フォトとデュラハンを引き離すことに成功。
前衛と後衛が入れ替わった状況、このまま俺が一対一で倒す。
「嬉しいぞ勇者、再び相見えることになるとはな!」
「やっぱりあの時のデュラハンか。あの時殺しておくべきだったぜ」
過去に魔界の村に住んでいた期間。魔王をよく思わないその村は、俺にとって心を落ち着かせるのにうってつけの場所だった。そんな村を襲ったのが、このデュラハン。魔王に指示され、村ごと消しに来たのだ。
「ククッ、ああそうだな。あの時この私を倒していれば、あの村は消えずに済んだのになぁ?」
「ッテメェ……!」
ブチッと何かが切れた。腕に力が入る。息が荒くなる。落ち着け、怒りに身を任せるな。
あの村を消した? あんなに親切にしてくれたあの村を? ああダメだ、怒りは抑えられそうにない。
もう、いいだろう。今から全力を出したって何とかなるさ。フォボスだってそのまま倒せる。
「――――――――『魔力開放Ⅰ』」




