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冬の訪れ

 族長や他の村人に確認を取った俺たちは、フォボスの部下である魔族が現れるまで慎重に山を登っていく。

 後方にはしっかりと族長らがついてきている。戦えない子供や老人は里に残っている。族長が頑固で、火山の外へ逃がすことは拒否したのだ。まあ端の方で隠れていれば大丈夫なので問題はないだろう。

 元々溶岩は俺が食い止める予定だったので溶岩に怯える心配もない。そもそも逃げてもフォボスを止められなかったらその時点で皆殺しなのだ。どのみち関係ない。むしろ緊張感が増していいまである。


「見エタゾ。溶岩ダ!」

「了解! 風邪ひくなよ!」


 『倉庫』スキルから取り出し、限界まで魔力を込めたフロストソードを構える。

 このフロストソードは氷の剣、魔力を込めて使うことで冷気を発生させ、氷を生み出して攻撃することができる。

 しかし今回込めた魔力はただの魔力ではない。俺の、竜などの魔力が入った魔力なのだ。それを限界まで込めればあら不思議、季節を変えてしまうほどの冷気を生み出す。


「いっけえええええええええええ!!!」


 前方に向けて全力で振る。振った俺自身が寒さを感じるほどの冷気が山を登って行った。

 木々に白い霜が降りる、相手も気温が低下したことに気付いているだろう。向こうが止めに来るよりも先に、こちらが溶岩の流れを止めてみせる。


「さっぶぅ!?」

「一気に過ごしやすくなったねぇ」

「これは…………すごいですね」

「フム、コンナモノカ」


 皆それぞれ寒さを感じている。今の寒さは肌寒いなんてものではない。ここで水を流せば氷になる、そんなレベルの寒さなのだ。インフェルノはそもそもが炎の竜なため体温はさほど下がらないらしい。

 ああ、懐かしいこの感覚。雪山の山頂にあった巨大な氷塊から作られた剣なのだ。旅の途中で何度もお世話になった。


「炎耐性はあっても寒冷耐性は持ってないんですけど!」

「耐えろどうせ熱くなるんだから」


 しかしこれだけでは溶岩は止まらない。今出ている目の前の溶岩ならばこれでいいのかもしれないが、火口から今も溢れ出ているであろう溶岩には効果がない。

 さらに溶岩から熱を奪う必要があるのだ。そこで!


「『ウェザーショット・レイン』」


 そう、『ウェザーショット・レイン』ですね。

 大雨を降らせて溶岩の熱を奪うのだ。そのためにこのスキルを何発も空に打ち込む。


「うわっ、雨だ!? さっむ!!!!!!!!! 馬鹿じゃないの!?!?」

「これくらいしなきゃ溶岩は止められないだろ。終わった後風邪ひかないようにな」

「無理だろ絶対寝込むからこれ」


 そんな会話をしながら先を進む。遂に固まった溶岩の上に立つ。

 溶岩を固めるために小刻みにフロストソードを振って進んでいく。足場の確保はできた。この寒さは全員の了解を得て行ったものだ。寒さで士気が下がったり、集中力が切れてしまう危険性もあるからな。

 ちなみに却下された場合、スキルで岩を創ってそれを足場にする予定だった。曲芸じみた戦いになるためそれはそれで危険なのだが。


「今回の相棒はお前だな」


 右手に持ったフロストソードにそう呼びかける。気のせいだろうか、その言葉に応えるように剣が冷気を発したように感じた。

 この剣をメインで使うのは随分久しぶりな気がする。今まではずっとオリハルコンの剣を使っていた。


「いたぞ! この冷気は貴様の仕業か!」


 遠くから走ってくる魔族がそう言った。竜人族か。当初の作戦である目の前の敵を倒すが使えるな。

 相手はたった三人、なぜこの数人だけなのだろうか。強そうにも見えないし、向かってもこない。


「進め!! 一気に攻めてフォボスを討つ!」

「おう!」


 長期戦ではジリ貧だ。やはり今回も短期決戦。俺の勇者としての旅もほとんどが短期決戦だった。

 魔王との戦闘は……………………長かったな。お互い死にかけてたなぁあの時。懐かしい。


「そ、そうか! 貴様が勇者のし――――――――」

「どーらっしゃあああああああああ!!! 『アイスバインド』!!」

「があああああああああああああ!!!!!!!」

「ぃよし!」


 なんか変なこと言い始めたので斬った。あれは向こうが悪い。俺は悪くない。

 三人一気に拘束したので、倒すのは簡単だった。三人なのが悪い。もっと多ければ逃げれたかもしれないのに。いや勇者とか言い出した本人はどちらにせよぶっ殺してたけど。


「そいっと、さっきの奴なんか言ってなかったか? ゆう何とかって」

「さあ? 夕飯なんだろーーー!? とかじゃね?」

「戦場で!?」


 適当に誤魔化しておく。くっそ完全に忘れていた。フォボスって俺のこと勇者の子孫だと思ってるんだよな。残念ながら勇者の子孫はプレクストンにいるぜ。いやあれは偽物か。そもそも勇者の子孫とかいないぜ。

 俺が勇者であること、それを伝えるのはまだ先になりそうだ。伝えたら、とても面倒な未来が待っている。まずこの時代では勇者は生きていたことになっているだろ? その時点で本物だとは国には認められないし、強力な力を持っていることで強制的に情報を吐かせられてしまう。

 仲間にだけ教えようかな。いやぁ、それもまだ先だなぁ。心の準備ができていない。


「キールさん! 次の部隊が来ます!」

「つーことはさっきのは偵察か。こっからが本番だ。一気に火口まで走り抜けるぞ!」


 敵の全滅は必要ない。フォボスを、一番強い者を倒してしまえばそれでいいのだ。

 相手の戦意を削ぐ。それができればこちらの勝ちは見えてくる。


「はいっ!」

「よっしゃあ! あたしも行くぞ!!!」


 雑魚狩りの始まりだ。

 ヴァリサさんが本気を出したら止まらねぇぞオラァ! 大剣の薙ぎ払いの餌食になりてぇか!!

 ここまでくると楽しくなってきた。もう強い奴が来るまでは戦いを楽しんでやろうか。

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